レオナルド・ダ・ヴィンチとプラトンの立体
ルネサンス期的教養人と数学
ルネサンス期はギリシアの幾何学が絶賛されおおいに持ち上げられた時代です。すべての分野に通じた博学の人を「ルネサンス期的教養人」と呼ぶように、当時の知識人は実に幅広い知識と教養を身に着けていました。何人もの芸術家は一流の数学者でもありました。多くの画家は、絵画をきわめるには数学が必要だと唱えています。ダ・ヴィンチも著書『絵画論』の冒頭で「数学に強くないものは、私の著作を読んではならない」と宣言しています。ただ数学の発展という観点からみると、当時の人が何か独創的な結果を出したということはありません。西ヨーロッパの数学や科学が急速に発展しだすのはもう少し後のことになります。数学の理解に関しては、ユークリッドの『原論』の最初の数巻と
パチョーリと黄金比:黄金比の再帰構造と神秘性
パチョーリは「黄金比」のことを「神聖な比」と呼んで、この本のなかでえんえんと美辞麗句を並び立てています。パチョーリは修道士でしたから、数学も神学の一部だと思っていたのでしょう。たとえば、黄金比には「小さい数、大きい数、その和」という3つの数が出てきますが、これをキリスト教の“三位一体”に例えています。また黄金比 が整数比では表せないことを「神は人間の尺度では測れないこと」を意味していると述べています。さらに、黄金比の再帰構造(つまり、「大きい数と2つの和」が「小さい数と大きい数」とみなされこれが永遠に続くこと)を、神の遍在性と普遍性を表すものだ、としています。パチョーリの用いた「神聖なる比」という名称と、この比の持つ摩訶不思議な神秘性が一般の人に受けたのでしょう。これ以降「神聖なる比」は広く世の中に広まります。しかし19世紀にもなると、科学万能の時代になり、“神”は一般受けしなくなったのかもしれません。「神聖なる比」という名称は「黄金比」にとってかわられます。(パチョーリの用語「神聖なる比」は、黄金比のことで、前回の終わりで述べた「聖なる比 5 : 3」とは異なることに注意してください。)
古代ローマの建築家ウィトルウィルスの著作とルネサンス期の数学の理解
ルネサンス期の数学の理解は、古典期のギリシアの数学のほんの初歩的段階にすぎませんでした。パチョーリやダ・ヴィンチが学んだのは『原論』などではなく、『4-6』で述べた古代ローマの建築家ウィトルウィルスの著作だったようです。パチョーリは『神聖な比例』において
レオナルド・ダ・ヴィンチは、パチョーリの『神聖な比例』のイラストを描いたことからも分かるように、パチョーリと親交を持ちます。ダ・ヴィンチはパチョーリから数学を学んだといわれていますが、その前から数学を勉強していたかもしれません。ダ・ヴィンチは正式な教育を受けたこともなくラテン語も理解できなかったと伝えられていますが、当時の人たちの多くは独学でした。上で当時は数学の独創的な進展はなかったと述べましたが、これは数学だけに限ったことで、ルネサンス期の人々はみな独創的で、すばらしい作品を残しています。ダ・ヴィンチはそのなかでも第一人者です。
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