比の概念と古代の数学
本節では古代エジプトで、比や傾き(勾配)がどの様に扱われていたか。について詳しくみていきます。
消費税10パーセントとか、バーゲン50%オフとか、明日の雨の確率30% など、私たちの身の回りには比があふれています。比とか比率とか比例という概念は、数学にとって最も基本的なものです。円周率や黄金率も比の一種ですが、エジプト人はこの概念をどの程度理解していたのでしょうか。
ギリシアの幾何学の書『原論』には比の明確な定義があり、現在数学から見ても遜色のない「比の理論」が展開されています。『原論』はユークリッドによる立派な著作物であり、人に読ませるように書かれた数学の最初の著作物といってよいでしょう。一方、出土したエジプトの数学文書は、書記のための教科書、いわば現在の受験の問題集のようなものであり、単に問題の羅列です。ですから、これらの史料からエジプトとギリシアの数学を単純に比較することはできません。
古代エジプト人が解いていた比の問題
エジプトの出土したパピルスから判断すると、比に関する次のような問題はエジプト人にとって朝飯前の簡単な問題だったようです。
4人に3個の割合でパンを配ります。10人に配るには何個のパンが必要ですか。
4kg の小麦で3ℓ のビールができます。10kg では何 ℓ のビールができるでしょうか。
4メートル進むと3メートル登る坂があります。10メートル進むと何メートル登りますか。
これらの問題はみな同じ論理構造をしています。私たちは新しい概念を習得するのにとても苦労します。同じような概念を一つにまとめると覚えるのが楽になります。上の問題は比という概念でまとめることができます。現在の私たちは方程式が使えます。上の3つの問題は未知数 x を使うと次のように表現できます。
4人に3個の割合は、10人に x個の割合に等しい。
4kg の小麦の3ℓ のビールの濃度は、10kg の小麦のx ℓ のビールの濃度に等しい。
4メートル 進むと3メートル 登る傾斜は10メートル進むとxメートル登る傾斜に等しい。
上の3つの問題は、図3.2.1のようなグラフで表されます。問3 ではグラフは実際の坂道を表しています。このグラフでは、右に1進むと上へ \(\frac{3}{4}\) 進みます。\(\frac{3}{4}\) をこのグラフの傾きといいます。
皆さんは急な坂とゆるやかな坂をどのように区別しますか。角度も一つの方法で、数学ではいま述べた傾きという概念を用います。 図3.2.2 のような直角三角形 CABを考えます。AC と AB のなす角をθ、AB = a、CB = h とします。
直角三角形 ABC を坂だと考えてください。私たちはこの坂のゆるやかさ加減、つまり傾きの度合いを測るのに分数 \(\frac{h}{a}\) を用います。これは、水平に a だけ進むと垂直方向に h 上がることを表します。言い換えると
\(傾き = 1単位進むごとに上昇する長さ\)
となります。交通標識で傾き 5% の坂といえばこの意味で、100メートル進むと100メートルの 5%、つまり 5メートル上がる坂のことです。
勾配(セケド)と傾きの関係
もう一度図3.2.2 を見てください。直角三角形ABC で、角度θがわかれば傾き \(\frac{h}{a}\) がわかります。これは「三角関数 tan の表」があればそれをみればわかりますが、関数電卓があれば簡単に計算できますからやってみてください。tan は「タンジェント」と読みます。たとえばθが 45度の場合 tan(45) とキーを打つと、1 という答えが表示されます。逆に、傾きから角度を求める場合は、関数 tan-1 を使います。この関数は「アーク・タンジェント」といいます。tan が何者であるか知る必要はありません。「角度θが与えられたら、その傾きが出力される」とわかれば十分です。もちろん古代人は tan など知りません。これは皆さんの計算のためのものです。
エジプト人は、坂のゆるやかさ加減を測るのに「傾きの逆数」、つまり \(\frac{a}{h}\) を使っていました。現代の私たちにとって混乱するのは、エジプト人は a と h とで異なる単位を使っていたことです。つまり、底辺は掌尺で、高さは腕尺で測っていたのです。正確にいうと坂の緩やかさ加減を次で定義される「勾配 x 掌尺」という表現で表しました。
\(勾配セケド x 掌尺パーム = x 掌尺パーム水平に移動すると 1腕尺キュビット上昇する\)
私たちにとって底辺と高さの単位が異なると混乱しますから、以下では高さと底辺を共に腕尺で測ることにします。図3.2.2 において、a と h の単位を共に腕尺とすると、a 腕尺 = 7a 掌尺 ですから、この坂の勾配は
\(勾配セケド = \frac{7a}{h} = 7\times \frac{底辺}{高さ}\)(1)
となります。(1) を「勾配 ~ 掌尺」の定義と見なしてください。以下では「掌尺」を省略して、単に「勾配~」と書きます。現代の皆さんにとっては次の公式を覚えるのが手っ取り早いでしょう。傾きと勾配は互いに「逆数」の関係ですが変換するときには「7倍すること」をお忘れなく。
\(傾き = \frac{7}{勾配セケド}, 勾配セケド = \frac{7}{傾き}\)(2)
- パピルスにでてくる勾配セケドの問題
- クフ王の大ピラミッドの勾配セケド
- ペスの問題とは
- 問題3.2.4
- 問題3.2.5
- 問題3.2.6
- 問題3.2.7
- 問題3.2.8
- 問題3.2.9
- まとめ
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