エジプト人の面積計算法―古代数学の精巧さと創造性
歴史の父 ヘロドトスは、

ギリシア人は数学をエジプト人から学んだ
と述べています。しかしヨーロッパの人たちは長い間この言葉を無視してきました。「ピラミッドの建設にはごく初歩的な数学しか使われていない」とか、「エジプト分数は奇妙で原始的な分数だ」などと、エジプト分数をことさら軽視する発言が多かったように思います。古代エジプトに高度な数学が発達していたことが分かってきたのは最近のことです。前節ではエジプト人が相当面倒な比の問題を解いていることを見ました。今回はエジプト人が面積をどのように計算したかを見てみましょう。
古代エジプトの実用数学と土地測量
エジプトの幾何学は、ナイル川の氾濫後の土地を測量して耕作地を農民に分配するために生まれ、一般に数学は、生産物の集積およびその再分配や、ピラミッドの建設に必要な石材量の計算などの実用数学から発達したと考えられています。前節と同様に、この節でもパピルスにあった問題を解いてみます。これらの問題を現在のメートル法の単位で置き換えると、皆さんにとっては初等的で簡単な問題だと思えるかもしれません。しかし、ここでは当時の単位を使って考えてみます。これは古代人が数をどのように考えていたか、数という概念や面積という概念をどのようにして獲得してきたかを見るためです。
古代エジプトの測量単位と農地面積の計算方法
『3-1.古代エジプトの数の扱いと単位』で述べたように、長さの単位は、腕尺、掌尺、寸でしたが、以下ではさらに次の棒尺という単位を付け加えます。
\(1棒尺ケト = 100 腕尺キュビット= 約50メートル、 (1 腕尺キュビット = 約 0.5 メートル)\)
日本でも昔、検地で田畑を測るときは長い竹竿を使ったようです。ロープだと曲がったりたるんだりするようです。1棒尺 = 約50メートルですから、一度には測れず、何回かで測ったのでしょう。面積の単位は次のようになっています。
\(1 帯地ペイケス = 1 腕尺キュビット \times 1 棒尺ケト = 100平方 腕尺キュビット\)
\(1農地セタト = 100帯地ペイケス = 10,000平方腕尺キュビット = 1平方棒尺ケト\)
面積は縦 1 腕尺 横100腕尺の細長い帯状の面積を単位としていました。これを1帯地 といいます。畑は縄師によって横の長さが100腕尺 = 1 棒尺 の長方形に区切られていました。したがって縦の長さを測るだけで畑の面積が分かるようになっていました。図3.3.1参照。
縦の長さが n腕尺 なら、帯地が n個の n帯地となります。帯地が100個で1農地 です。つまり面積も一種の個数でした。直感的にも理解しやすく、実際に農地を計測したり、分配したりするにはとても便利だと思いますが、このような体系で
\(長方形の面積=縦の長さ\times 横の長さ\)(1)
という公式にたどりつくまでには長い道のりがあっただろうと思います。特に棒尺 、腕尺 、掌尺 寸などの単位が混じった長さどうしの掛け算は、計算するだけでも大変だと思います。
現在の皆さんは何の疑問もなく (1) を公式として受け入れていると思います。それはそれでまったく構わないのですが、ここで少し掛け算の生い立ちについて考えてみましょう。
面積計算の基礎としての小長方形の利用
掛け算は足し算の拡張として生まれたのだと思います。数 a の n倍、すなわち n×a は「a をn個足したもの」でした。上で述べたように、畑の面積は帯地がいくつかで測っています。エジプト人は数を自然数から分数に拡張しました。長さが分数で表わされたとき、(1) はどのように理解したのでしょうか。エジプトの単位系は複雑だから、現在のメートルで考えることにします。たとえば縦 \(\frac{2}{3}\)メートル、横 \(\frac{3}{5}\)メートルの土地の面積を考えましょう。
図3.3.2 のように縦横1メートルの正方形の土地を、縦を3等分、横を5等分すると、縦\(\frac{1}{3}\) メートル、横 \(\frac{1}{5}\) メートルの小さい長方形が 3 × 5 = 15 個できます。この小さい長方形は単位正方形(1平方メートル)の 15分の1です。縦 \(\frac{2}{3}\)メートル、横 \(\frac{3}{5}\)メートルの長方形には、この小長方形が2 × 3 = 6 個あります。したがって、影の部分の面積は \(\frac{6}{15}\) = \(\frac{2×3}{3×5}\)m2 となります。縦と横の長さが一般の分数の場合も、同様の方法で一般化できます。エジプト人も、具体的な数値でいろいろな問題を解くうちに (1) が成立すると考えるようになったのだと思われます。
以下では、長さの単位は棒尺、面積の単位は農地だけとします。
\(1農地セタト =1平方 棒尺ケト = 1 棒尺ケト^2\)
であることに注意してください。棒尺2 は「平方棒尺」の略記法で現代式の記法です。パピルスにあらわれる問題を見ていきましょう。
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- 古代エジプトの円の面積の扱い
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