2-6. 等積変換とは?内項外項の定理・グノモンの定理を詳しく解説

『積分の源流 アルキメデスの求積』は全16記事からなるWeb連載です。

 

第1章では、ピラミッドの体積を求めるのに「小石の数理」を用いました。(詳しく知りたい方は〔1-3 小石の数理〕をご一読ください。)しかし、アルキメデスは小石の数理(整数論)は使わずに、すべて「比の理論」を使って議論しています。現在では、面積は「小さな正方形がいくつでおおえるか」で議論できます。しかしこれは“後智慧(あとぢえ)”で、当時は数の “1” はこれ以上小さく分けることはできなかったのです。〔2-3 πの源流〕で見たように、円周とか円の面積は、円を 1/6, 1/12, … と小さく割っていくことで計算しています。量は数と違って、割ることができるのです。ここでは面積に関してもう少し詳しく見てみましょう。

等積変換

三角形は、同じ面積の長方形に変換できます。面積を変えずに変換することを等積変換といいます。たとえば次は等積変換です。

底辺が a 高さがh の三角形
\( = \frac{1}{2}□(a. h) = □(a. \frac{h}{2} ) \)

底辺 a、高さ h の三角形を用いた面積の可視化です。 薄緑色で塗られた三角形は、底辺が水平に伸び、頂点が底辺の中点上方にある二等辺三角形です。 その三角形を囲むように長方形が描かれており、長方形は高さ方向に上下で半分ずつ、つまり h/2 の位置で水平に二分割されています。 上半分の長方形(幅 a、高さ h/2)は右側に、下半分の長方形(同じ大きさ)は左側にそれぞれ配置され、合わせると底辺 a、高さ h/2 の長方形二つ分(□(a,h/2)×2)=底辺 a、高さ h の長方形一つ(□(a,h))となる様子を表しています。 全体で、三角形の面積が長方形 (a, h/2) の面積と等しいことを図示しています。

この式の意味は「底辺が a で高さが h の三角形の面積は、底辺が a で高さが h/2 の長方形の面積に等しい」という意味であって、「三角形の面積=底辺×高さ/2」という現代の公式とは意味が異なります( 図2.6.1)。 古代の比とは、2倍、3倍、1/2、1/3 の拡張概念であって、現在の分数のような「演算システム」ではありませんでした。

三角形の相似

「三角形の相似」の条件

おそらく読者の皆さんは、三角形の相似のことはよく知っていると思います。次の定理の3つの条件の1つが成り立てば、2つの三角形は相似です。証明は省略します。

【定理】三角形相似

2つの三角形において次の3つの条件は同値である。
(1) 対応する3つの角が等しい。
(2) 対応する1つの角と、それを挟む2つの辺の比が等しい。
(3) 対応する一つの辺の比と、その両端の角が等しい。

図 2.6.2) 図は三つの例((1)、(2)、(3))で構成され、それぞれ大きい三角形(左)と小さい三角形(右)が並んでいます。 	1.	(1):両方の三角形の頂点角に同じ角度を示す曲線(弧)が描かれ、底辺の両端に黒い点が付いています。これは「角・角」による相似を示しています。 	2.	(2):両方の三角形の両斜辺に単一のハッチ(斜線)が入っており、「辺・辺」の相似を表しています。 	3.	(3):両方の三角形の底辺上で左端に黒い点、底辺中央付近に単一のハッチがあり、大きい三角形では斜辺の一端にも黒点が付いています。これは底辺を分割した対応する線分の比が等しいことを示すマークです。

三角形の底辺平行

比の理論で最も重要な働きをするのは次の定理です。これも証明は省略します。

【定理】三角形底辺平行

図2.6.3 において次が成立する       
DE と BC は平行  ⇔  AD : AB = AE : AC

図 2.6.3) 三角形 ABC が描かれ、その頂点は上部に A、底辺の左端に B、右端に C です。頂点 A から底辺 BC に向かう二つの辺上に、それぞれ中点付近の点 D (左辺上)と E (右辺上)があり、これらを結ぶ線分 DE が三角形の内部に水平に引かれています。DE は底辺 BC と平行に配置されていることを示唆しています。

L字型の図形「グノモン」

グノモンの定理とは

図2.6.4 を見てください。ABCD は長方形で、G は対角線上の点、G を通る AB と平行な直線と、BCと平行な直線が書かれています。このときできる L字型の図形 イ-ロ-ロ’-ニ をグノモンといい、イとニをグノモンの突起部といいます。

図 2.6.4) 正方形または長方形 ABCD の内部が縦横に二等分され、4 つの小さな長方形・正方形に分割されています。左上の区画は「イ」で塗られ、右上区画は「ハ」、右下区画は「ニ」、左下区画は「ロ」とそれぞれ書き込まれています。左下区画内にはさらに「ロ′」のマークが小さく示され、右上区画の三角部分には「ハ′」のマークがあります。左上区画と右下区画だけが淡い緑色でハッチングされ、残りの区画は白地です。左上区画の右端から右上区画の左端までが(縦向きに二分割された)上辺、下辺も同様に中央で二分割されており、左上区画の下辺中央と右下区画の上辺中央を結ぶ対角線が図の中心点 G を通っています。図の頂点は A(左上)、B(左下)、C(右下)、D(右上)とラベル付けされています。

「グノモンの定理」の証明

【定理】グノモン

グノモンの突起部は等しい。

図2.6.4 で (イ)=(ニ) が成り立つことを示します。BD は長方形の対角線ですから

(イ)+(ロ)+(ハ) = (ニ)+(ロ’)+(ハ’)
(ロ)=(ロ’),  (ハ)=(ハ’)

よって (イ)=(ニ) が成立します。

内項外項の定理の証明

2-4 比の理論〕で述べた〔内項外項〕の定理 を証明しましょう。

【定理】内項外項

線分 a, b, c, d に対し、次が成立する。
a : b = c : d  ⇔  □(a, d) = □(b, c)

まず、a : b = c : d と仮定しましょう。□(a, d) と □(b, c) を図2.6.5 のように置きます。

図 2.6.5) 点 B から右方向に長さ a の水平線分 BF を引き,BF 上に点 F を取る.B から上方向に長さ d の垂直線分 BA を引き,BA 上に点 A を取る.これらによって幅 a,高さ d の長方形 ABFI ができる。次に点 F からさらに右方向に長さ b の水平線分 FC を延ばし,点 C を取る.点 C から上方向に長さ c の垂直線分 CH を引き,点 H を取ることで幅 b,高さ c の長方形 B C H G ができる(ここで G は後出の交点)。最後に原点 B と点 D(長方形 B C H G の右上隅ではなく,対角線の終点として配置)を結ぶ直線 BD を引き,その直線と水平線 EDH(E は AB 上の,H は CH 上の点)との交点を G と記す。A, I(ABFI の右上隅),D, H(BCHI の右上隅)がそれぞれ長方形と直線の頂点として図示されている。

ABFI が □(a, d) で、EBCH が □(b, c) です。CH の延長上に点 D を CD=d となるようにとり、D と B を結びます。IFとEHの交点をG とします。すると、△BFG と △BCD において、

BF:BC = a : b,  FG : CD = c : d

ですから、仮定 a : b = c : d より、

BF : BC = FG : CD

となり、2つの三角形は相似となります。よって、∠DBC = ∠GBF となり、G は対角線DB 上になければなりません。すると、2つの長方形で作るL字形はグノモンとなり、〔グノモン〕の定理より、この2つの長方形は等しくなります。

次に、□(a, d) = □(b, c) と仮定しましょう。2つの長方形を同じように重ねます。( 図2.6.6 )。

図 2.6.6) 点 B を起点に、まず幅 a、高さ d の長方形 ▢(a,d)(薄緑)を左上に描く。B から右へ a、上へ d、と辺をたどり、点 A(左上)、I(右上)を定める。ついで点 B から右へ a+b(幅 b を加えて)、上へ c(高さ c)の長方形 ▢(b,c)(薄緑)を右下に描き、頂点 C(右下)、H(右上)を得る。次に、原点 B と長方形右上の点 D を結ぶ対角線を描き、対角線と両長方形の重なり領域の中心に交点 G が生じる。背景には、二つの長方形のうち左上の領域「イ」、右上の領域「ハ」、右下の領域「二」、左下の領域「ロ」およびそれぞれの対角線で分割された「ハ′」「ロ′」が色分けされている。図全体で「▢(a,d) = ▢(b,c)」を仮定したとき、各領域の面積対応が視覚的に示されている。

CH の延長線と AI の延長線の交点を D とします。仮定より、(イ)=(ニ) が成立します。明らかに (ロ)=(ロ’), (ハ)=(ハ’) です。すると、

(イ)+(ロ)+(ハ) = (ニ)+(ロ’)+(ハ’)

となり、DGB は長方形の対角線でなければなりません。すると△GBF と △DBC は相似となり

a : b = BF : BC = GF : DC = c : d

となります。

長方形の和

底辺の等しい長方形は、積み上げることによって足すことができます。底辺をそろえるには次の定理を使います。

【定理】長方形の和

任意の線分 a, b, c に対し、次を満たす線分 x が作図できる
□(a, b) = □(x, c)

図 2.6.7) 図 2.6.7 は二つの並列する図から成ります。  左図 	•	点 B を原点とし、B→C→E へ右に長さ a、B→A→H へ上に長さ b の長方形(薄緑)を描く。 	•	上辺の点 H(左上)から右に b 増した点 G(右上)まで垂直線を伸ばし、右下の点 E(右下)まで垂直線を下ろす。 	•	B と G を結ぶ対角線を引く。 	•	底辺 BC は「a」、左辺 BH は「b」、B→G の弧は「c」、A→H 部分は「x」と示されている。  右図 	•	逆に、底辺 B→E→C へ右に長さ c、左辺 B→A→H へ上に長さ b の長方形(薄緑)を描く。 	•	上辺の点 D(左上)から右に a 増した点 F(右上)まで水平線を伸ばし、右下の点 E(右下)まで垂直線を下ろす。 	•	B と G(上辺と右辺の交点)を結ぶ対角線を引く。 	•	底辺 BE は「c」、B→D の弧は「b」、D→F 水平部は「a」、B→G の弧は「x」と示されている。  両図とも、長方形と三角形の面積対応を視覚的に比較しやすく配置している。

図2.6.7 の長方形ABCD で、AB=b, BC=a とします。直線BC上に点E を、BE=c となるように取ります。直線 BC と言った場合、線分 BC を左右に無限に延長した直線を意味します。c<a の場合は線分 BC 上に、c>a の場合はBC の延長線上に点 E を取ります。E を通る、直線AB と平行な直線を引き、直線AD との交点を F とします。F と B を結び、直線BF と直線CD の交点を G とします。G から直線BA に下ろした垂線の足を H とします。BH=x が求める線分です。

BH=x が定理の条件を満たすことは、図2.6.7 の影の部分がグノモンとなっていることから分かります。

まとめ

ここでは三角形と長方形が足せることを示しました。三角形は長方形に等積変換できます。また、2つの長方形は底辺をそろえることで、足すことができます。したがって、任意個数の三角形は長方形に等積変換できることになります。また、この節で証明した〔内項外項〕の定理 は、比の理論においてとても重要な役割をします。

『積分の源流 アルキメデスの求積』は全16記事からなるWeb連載です。

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