〔1-1アルキメデスと無限〕で述べたように古代ギリシアの数学では数と量を明確に区別していました。古代の人にとって、“数”とは個数を数えるときにだけ用いる自然数であって、長さや、面積や、体積などは“量”として扱い、“数”と“量”とは全く別物として扱っていました。
現在の私たちにとって、長さ、面積、体積などの量は実数で表され、自然数は実数の特別なものに過ぎません。つまり、自然数も実数なのです。“数”という概念はあまりにも基本的な概念なので、古代の人の“数”がどのようなものであったかを理解するのはとても難しいことだと思います。たとえば、古典期のギリシア人は分数も小数も知らなかったこと、それにもかかわらず高度な論証数学を発展させてきたことなどはにわかには理解できないと思います。したがって、「ギリシア人にとって“数”とは何であったのか」を考えるのは後回しにして、ここではアルキメデスが“量”をどのように扱ってきたのかを述べることにします。
量はどのように扱われていたか
本連載で用いる略記法
ユークリッドの『原論』と同様、アルキメデスも“長さ”とか“面積”とか“体積”という用語は使っていません。線分 AB といったとき、線分 AB 自身を表すときと、線分 AB の長さを表すときとがあります。これは便利なので現在も用います。たとえば、線分 AB と CD に対し、AB = BC と書いたときは、線分 AB の長さと線分 CD の長さが等しいことを表します。
古代では式は用いませんが、本連載では略記法としての式をよく用います。たとえば「三角形ABC」の代わりに △ABC と書きます。たとえば、△ABC = △DEF と書いたとき「2つの三角形 ABC と DEF の面積は等しい」と読みます。本連載では次のような略記法を用います。
\(〇(r) 半径 r の円の円周\)
\(〇^2(r) 半径 r の円の面積\)
\(□(a,b) 底辺が a 高さが b の長方形\)
\(□^2(a) 1辺が a の正方形\)
\(□^3(S, h) 底面がS、高さが h の直方体\)
\(□^3(a) 1辺が a の立方体\)
記号 〇2 は円の面積を、□2 は正方形を表す記号で、2乗を意味するものではないことに注意してください。□3 についても同様です。これらは右の言葉の略記法であって、言葉に置き換えることができることにも注意してください。これだけの記号ではとても多くの図形に対処できるものではありません。あとは言葉を使って、たとえば「台形ABCD」などと表すことにします。
同じ種類の量は足すことができる
同じ種類の量は足したり引いたりできます。しかしこれは「実際に足せる方法がある」ことを意味するものではありません。量には大きさがあり、同じ種類の量は、どちらが大きいか、あるいは等しいかが決まっています。これも「どちらが大きいか」を実際に判定する方法があることを意味するものではありません。たとえば、複雑な2つの曲線は、どちらが長いか実際に判定する方法が分かっていないことがあります。重要なことは、種類の異なる量は足したり、大きさを比較することができない、ことです。たとえば、長さと面積は足せませんし、大きさを比べることもできません。
交換法則、分配法則
同じ量は足せますから、自然数倍することができます。量 a と自然数 n に対して na は、a を n 個足した a+a+ … +a を意味します。
自然数 n と m、量 a に関しては次が成立します。
\((a) na + ma = (n+m)a\)
長方形に関しては次が成立します。ここで a, b, c は任意の辺とします。
\((b) □(a, b) = □(b, a)\)
\((c) □(a, b+c) = □(a, b) + □(a, c)\)
これを図に表すと以下のようになります(図2.1.1)

□(a, b) を a×b と置き換えると、次となります。
\((d) 交換法則 a×b = b×a\)
\((e) 分配法則 a×(b+c) = a×b + a×c\)
時代が進むと、辺(線分、長さ)は実数とみなされるようになり、(b) は(d) の交換法則、(c) は (e) の分配法則とみなされるようになりますが、アルキメデスの時代ではまだ (b) と (c) は任意の量に対する規則ではなく、辺についてだけ述べたものです。
- 古代ギリシアにおける量の足し算
- 円周の足し算
- 面積の足し算
- 「量」の列はどのように扱われたか
- 基本等差列
- モナド 〜 ギリシアにおける“1” 〜
- 基本等差列の定理
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