現在の私たちは分数も小数も自由に使いこなしています。そして“数”はあまりにも基本的なので、世界史にその名を残した大数学者のアルキメデスが、今では小学生でも知っている分数を使いこなせていなかったなどとは信じがたいと思うでしょう。しかし考えてみると、量における掛け算とか割り算の意味はなかなか難しいのです。たとえば“重さ×重さ”とか“時間×時間”に何か意味があるのか、すぐには思いつきません。“長さ÷時間(速度)”とか“重さ÷体積(比重)”のような量の掛け算や割り算を考えるようになったのは、近世に入ってからです。量を数として認識し、自由に四則演算ができるようになったのは、アルキメデスのような天才が多くの知見を遺してくれたおかげなのです。本節では古代ギリシアのアルキメデス が円周率をどのように考えていたかを調べてみましょう。
古代における比とは
現在の皆さんは、“比”を「分数の表現方法の一つ」と思っているかも知れません。現在ではそれでよいのですが、古代では比と分数はまったく違うものでした。“現在の比”と“分数”になれている皆さんにとっては、“古代の比”を理解するのはなかなか難しいと思います。本来なら、ここで述べる円周率には、比についての厳密な定義の後にするべきなのですが、あえて先に持ってきました。比の厳密な扱いは『原論』によって始めてなされました。しかし、ユークリッドが『原論』を書くはるか昔から、バビロニアやエジプトで“比”は実用的な問題を解く道具として用いられてきました。これは、19世紀になって「実数の厳密な定義」がなされるずっと前から、ニュートンやガリレオなど多数の人がすでに数を使っていたのと同様です。
円周率とは何か
無限とは何か
アルキメデスが円周率 π の近似値として次の近似値を得たことは有名です。
\( 3\frac{10}{71} < \pi < 3\frac{1}{7} \quad (1) \)
“近似値”とは“真の値”に近い値ということです。アルキメデスははたしてこのような“真の値”なるものを考えていたでしょうか。現在の私たちは π の値が小数点以下無限に続くことを知っています。無限とは1億桁でも100億桁でもなく、無限に続くのです。はたしてそんな数が存在するのでしょうか。存在するかどうかはともかく、π が存在しなければ現在の数学そのものが存在しなくなってしまいます。しかし、アルキメデスが得たのは (1) のような数値ではなく“比”だったのです。
- アルキメデスの考えた”円周率”と現在の”円周率の定理”
- アルキメデスの証明
- 円周率の定理を証明する
- 古代ギリシアの幾何学とは
- 円周率の定理の証明
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