1-3. 三角数・正方形数・立方体数とは?古代ギリシアの数の分類を解説

『積分の源流 アルキメデスの求積』は全16記事からなるWeb連載です。

現代数学は、抽象的で、形式的で無味乾燥だと感じている人が多いかもしれません。古代の数学もこんな風だったのでしょうか。ギリシア数学には「小石の数理」と呼ばれるものがあり、これは数学の原初の姿をとどめており、とても具体的で直観的です。

古代では小石を使って数を数えていた

calculate の語源

古代の人は数を数えたり計算したりするときに小石を使ったようです。これは「計算する」という意味の英語 calculate が小石を意味するラテン語 calculus から来ていることからの推定です。一方中国では細い竹を使って数を表していました。これは“算数”の“算”には“竹”が入っていることからも分かります。古代では、“数”といえば小石や竹の個数を表す自然数でした。まず自然数から始めましょう。古代の小石を使った数理と現代数学の数式を使った数学の違いを観察してください。

数え上げ〜数の習得

皆さんは自然数というと、幼稚園児でも知っている簡単なものだ、と思うかもしれません。しかし自然数はとても抽象的な概念なのです。

ではなぜ幼稚園児はいとも簡単に自然数を習得するのでしょうか。幼児教育の専門家は、それは「数えあげ(counting)」にあるといいます。子供のころ、お父さんかお母さんからお風呂などで繰り返し「ひとつ、ふたつ、みっつ、…」と数を数えるのを教わった人も多いと思います。数学は「頭の中だけで考える」ことも重要ですが、繰り返し練習して習得する「技術」も必要です。「数えあげ」を繰り返すことによって、子供たちは数という抽象的な存在をあたかも実在する対象として認識できるようになると考えられています。

「数える」とは何か

どんな動物も、哺乳類だけでなく、鳥も魚も、小さい数の識別はできるようです。これは生まれながらに持つ生得的な能力ですが、せいぜい3とか4といった小さい数に限るようです。数えるという行為は、数える対象と、“ことば”あるいは“ゆび”あるいは“小石”との対応をつけることです。

古代ギリシアにおける数の分類

三角数・三角錐数

前節〔1-2.数を並べる「数列」の概念〕では三角数とか三角錐数を定義しましたが、古代の人々はこれらをどのように扱っていたのでしょうか。小石を使って想像してみましょう。まず、原始列は小石を順番に並べます。(図1.3.1)

図 1.3.1: 並んだ球の直線配列左から等間隔で並べられた光沢のある球(または丸い点)が描かれています。最初の球が画面左端付近にあり、そこから右方向へ3つ目くらいまで同じ間隔で球が続き、その右には「…」の省略記号が置かれて、さらに同様の球が並び続くことを示しています。

自然数の列は、まず1個置き、次からは直前のものに1個ずつ加えていきます。(図1.3.2)

図 1.3.2左から順にレーン上に並んだ球(または点)が 1 個、2 個、3 個、4 個…と増えていく様子を示しています。つまり、 	•	最初は球が1つだけ 	•	次に横に並んで2つ 	•	続いて3つ 	•	さらに4つ 	•	…と、球の数が1ずつ増えていく直線上の配列を表しています。

次の三角数の列は、直前に作ったものを上に載せます。まず1個。次は2個の上に1個載せます。次は3個の上に今つくった“三角”を乗せます。さらにこれを続けます。(図1.3.3)

図 1.3.3 「三角数の列」を示す図です。左から順に、 	1.	1個の球を点で示したもの(第 1 三角数)、 	2.	底辺に3個、その上に1個を重ねた計4個の球(三角形の2段、第 2 三角数=3)、 	3.	底辺に3個、その上に2個、その上に1個を重ねた計6個の球(三角形の3段、第 3 三角数=6)、 	4.	底辺に4個、その上に3個、その上に2個、その上に1個を重ねた計10個の球(三角形の4段、第 4 三角数=10)、 …と、段数 n に応じて底辺が n 個、上層が順に n−1, n−2,…,1 個となる正三角形状に球を配列したモデルが並んでいます。

次の三角錐数は球状の“砲弾”を積んでいきます。図1.3.3 の 〇 は砲弾だと思ってください。 まず最初は1個の砲弾。次は図1.3.3 の3個の三角形の上に1個の砲弾を乗せると“三角錐”ができます。次は、図1.3.3 の三番目の三角形の上に、今つくった三角錐を乗せます。この手続きを繰り返します。(図1.3.4)

図 1.3.4「三角錐数の列」を表す球の配置で、左から順に 	1.	1 個の球 	2.	4 個の球を底辺に 3+1 構成した正三角錐(底面が 3 球+頂点 1 球) 	3.	10 個の球を底面 6(3+2+1)+側面 3+頂点 1 で積み上げた三角錐 	4.	20 個の球を底面 10+側面+頂点で構成したさらに大きな三角錐 …  というように、n 段目が n(n+1)(n+2)/6 個の球でできる三角錐(四面体)のモデルが順に並んでいる。

さて、これから次を証明したいと思います。

1 行目:「n番目の三角数 = n(n+1)/2」 2 行目:「n番目の三角錐数 = n(n+1)(n+2)/6」

(1) と (2) では数式を使いましたが、古代では式など使えません。すべて言葉で表さなければなりません。これを証明のためにはまずいろいろな言葉を用意する必要がありました。

偶数と奇数

古代ギリシアでは数を「小石を並べてできる形」で分類しました。2列に並べることができる数を偶数2列に並べると1つ余る数を奇数と呼びます。このように数を類別すること、つまり新しい言葉(概念)を作ることが「理論の始まり」です。(図1.3.5)

図 1.3.5: 左に縦の長さが n 、横の長さが n の正方形と、その上に幅 1 の縦長の細長い矩形(高さ n+1)が重なった大きな縦横比 n×(n+1) の長方形を示す。右側には同じ長方形が、内部を階段状に分割された緑色と青色の領域に分けられて描かれている。緑の階段部分は1段目が高さ 1、2段目が高さ 2、…、n段目が高さ n の累加を表し(1+2+…+n)、青の細長い縦長部分は幅 1 であることを示す。

長方形数・正方形数・合成数

長方形に並べられる数を長方形数といいます。ただし1列は長方形とは認めません。正方形に並べることができる数を正方形数といいます。

ギリシアでは形で数を分類しましたが、現在の私たちは数を、掛け算を使って分類します。1以外の2つの数の積として表される数を合成数、ある数の平方(2乗)で表される数を平方数と呼んでいます。たとえば、ある数 a が2つの数 b と c の積で表されるなら、すなわち a=b×c (b≠1, c≠1) なら、a は b と c から「合成される」から今では合成数と呼ばれ、ギリシア時代では、a個の小石は、縦 b、横 c の長方形に並べられるから長方形数と呼ばれたのです。正方形数と平方数の関係も同様で、同じ概念を表します。 長方形数でない数を素数といいます。また、3乗の形で表わされるもの、つまり a3 で表される数を立法数と言います。

以上をまとめると次のようになります。(図1.3.6)

図 1.3.6: 数の並べ方と現代的分類の対応を示す表。 1行目: 「2列に並べられる」→「偶数」 2行目: 「2列に並べると1余る」→「奇数」 3行目: 「長方形に並べられる」→「長方形数/合成数」 4行目: 「長方形に並べられない」→「素数」 5行目: 「正方形に並べられる」→「正方形数(平方数)」

三角数と準正方形数の関係

さて、(1) の証明をしましょう。図1.3.7(a) は4番目の三角数です。図1.3.7(b) はこれをひっくり返したものです。

図 1.3.7: (a)球が10個、等間隔で三角形状に配列されており、底辺に4個、その上に3個、2個、1個と積み上げられた「正位置」の三角形。 (b)同じ10個の球を使い、三角形を上下反転させて配列した「逆位置」の三角形で、頂点が下向きに配置されている。

図(a) と図(b) を合わせると、4×5 の長方形になります。縦の個数より横の個数が1個だけ大きい長方形を準正方形と呼び、それの表す数を準正方形数とようことにします。特に縦の個数が n の場合、n番目の準正方形と呼びます。すると (1) は次のように表されます。

n番目の三角数は、n番目の準正方形数の半分である                     (3)

証明は、図1.3.8 から明らかです。

図 1.3.8: 左側に球が三角形状に配列された「4番目の三角数」(1行目に1個、2行目に2個、…4行目に4個、合計10個)の図と、その左右を反転した同じ三角形(合計10個)が“+”で並べられています。これら二つの三角形を合わせると、右側に球が4行5列(合計20個)に整然と配列された長方形(縦4、横5)の図となっており、「4番目の準正方形数」を表しています。

グノモン:ギリシア数学に現れるL字型

連続する奇数の和は平方数

前節で、1から始まる奇数列の和は平方数となると述べました。正確にいうと

1 + 3 + 5 + … + ( 2n – 1 ) = n2

となります。これに対しても図形による証明を与えておきましょう。奇数は図1.3.9 で示されるように、L字型の図形で表すことができます。図に現れる L字型、あるいはLを反転した図形はグノモンと呼ばれ、ギリシアの数学ではたびたび現れます。グノモンとは、日時計を簡略化したL字形の時計で、突起部の影の長さで時刻を測る器具です。

図 1.3.9: 左から順に、緑色の背景内に青緑色の球が階段状に増えていく様子を示しています。 	1.	最初は1つだけ球が置かれた正方形 	2.	次は2×2の格子に階段状の白線が入り、球が4つ(左縦2つ、上横2つ)配置され、「1+3=4」と記されている図 	3.	続いて3×3の格子に同様の階段状白線が入り、球が9つ配置され、「1+3+5=9」と記されている図 	4.	最後は4×4の格子に階段状白線が入り、球が16個配置され、「1+3+5+7=16」と記されている図 以上が、奇数の和によって完全な正方形ができることを視覚的に示したイラストです。

このように並べてみると、奇数の級数は正方形つまり平方数になっていることが一目瞭然でわかります。奇数の和が平方数になるなんて、不思議だとは思いませんか。

隣り合う三角数の和は平方数

平方数と三角数に関しては次も知られています。

隣り合う2つの三角数の和は平方数になる。                                  (4)

図 1.3.10: 緑色の背景に、青緑色の丸い点(球体)が4×4の格子状に並べられています。その上に白い階段状の線が引かれ、右上の領域に6個の点、左下の残りの領域に10個の点を分割しています。右側の黄色い吹き出しに「3番目の三角数 6」、左側の黄色い吹き出しに「4番目の三角数 10」と書かれています。

図1.3.10より、3番目の三角数 6 と4番目の三角数10を合わせると、平方数 42 =16 となることが分かります。(4) を n=3 の場合について示しましたが、任意の n について成り立つことは明らかです。

三角錐数と準立方体数の関係

準立方体数とは

(2) の三角錐数を示しましょう。縦 n、横 n+1、高さ n+2 の直方体を準立方体、その表わす数を準立方体数と呼ぶことにします。すると、(2) は次のように表すことができます。

三角錐数は準立方体数の6分の1

したがって、

(三角錐数)× 6 = 準立方体数                               (5)

となります。n が十分大きければ、準立方体はほぼ立方体となることに注意してください。

1番目の三角錐数

上の図1.3.4では砲弾(球)を積みましたが、今度はキューブ(小立方体)を積むことにします。図1.3.11 は最初の3つの三角錐数です。n=1 の場合。1 は三角数でもあり三角錐数でもあります。一個のキューブが6個で 1×2×3 の準立方体ができます。

図 1.3.11: 左から順に、 	1.	1個の立方体が単体で置かれた図、 	2.	3個の立方体が底辺に 2 個、その上に 1 個を重ねた三角形状(三角数 2)に積まれた図、 	3.	6個の立方体が底辺に 3 個、その上に 2 個、さらにその上に 1 個を重ねた三角形状(三角数 3)に積まれた図。

2番目の三角錐数

n=2の場合。2番目の三角錐数は、2つの三角数の和 1+3 です。三角数 1は、6個で、n=1 で作った 1×2×3 の準立方体とします。三角数 3 は 、2個で準正方形数2×3となります。すると、図1.3.12 が示すように6個で、2×3×3の直方体ができます。これと n=1 で作った 2×3×1 と合わせると、2×3×4 の準立方体ができ上ります。同様の操作はいくらでも繰り返すことができます。

図1.3.12:左側に2×2の正方形から1つ欠けた “L” 字型に積まれた4個の立方体が描かれており、その右に「×6」の記号があります。右側には3×3×3の立方体が描かれ、その上段を拡大した吹き出し内に、3個ずつ階段状に並んだ三角形の塊(“三角数3” を表す三角形状に積まれた立方体)が2つ示されています。

3番目の三角錐数

n=3 の場合もやってみましょう。3番目の三角錐数は、3個の三角数の和 1+3+6 です。1+3 に対しては今つくった準立方体 2×3×4 を使います。三角数 6 は、2個で 3×4 ですから、これを3個集めると、3×3×4 の直方体ができます。2つの直方体を合わせると、(2+3)×3×4 となりますが、これは 3×4×5 の準立方体となります。

『積分の源流 アルキメデスの求積』は全16記事からなるWeb連載です。

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