第10回 1日の定義と1年の定義

暦の役割と時間の定義

時間と何か

暦(カレンダー)は私たちが生活する上でなくてはならないものです。皆さんは1年の定義や1日の定義について考えたことがありますか?「1年は365日、1日は24時間に決まっているでしょう?」と思われるかもしれません。「地球が約365日かけて太陽の周りを一周するから1年は約365日」と答える方も多いと思います。私たちは時計やカレンダーのある生活が当たり前になっているので「時間の定義とは?」などと考えること機会はあまりないと思います。今回は1日や1年はどのように定義されているのか、詳しく見てみましょう。

これまで本連載では、1年を360日とみなすとか、地球や月が円軌道を回っていることにするなど、単純化して天文のお話をしてきました。今回はもう少し精密な議論をしましょう。

「時間の定義」の変遷

現代の天文学は非常に精密なものになってきています。例えば“時間”の定義は時代と共に変わってきていますし、定義も複雑です。

もともとは地球が1回転する速度をもとに時間を定義していたのですが、1日の長さは夏と冬では異なることから、“1日の長さの平均値”を基準とすることに変更しました。しかしやがて、自転の速度も毎年少しずつ遅くなっていくことが分かったので、地球が太陽のまわりを一周する時間、つまり1年を基に定義することにしました。ところが公転周期も200年に約 0.5秒ほど遅れることが判明したのです。200年でたったの 0.5秒です。 そこで、1967年の国際度量衡総会で、セシウム133という原子が出す周波数を基に“秒”が定義されました。その後も“秒”のより正確な定義方法が何度も提案されています。

ここでは時間の詳しい定義は省略し、「1日=24時間」を認めることとします。

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1年の定義:1太陽年と1恒星年

太陽年とは何か

天文学では春分点を基準点としますが、ここでは直観的に理解しやすい夏至点を基準点としてお話します。太陽系モデルで夏至点とは、地軸が最も太陽の方に傾いた地点です。古代の人も太陽が昇る位置から夏至の日を特定することができました。1太陽年とは 夏至から次の夏至までの日数 のことです。現代では次が分かっています。

1太陽年 = 365.2422日

ここで、これを“時間―分―秒”表現に変換してみましょう。

0.2422日 = 0.2422 × 24時間 = 5.8128時間
0.8128時間 = 0.8128 × 60分 = 48.768分
0.768分 = 0.768 × 60秒 = 46.08秒

よって

1太陽年 = 365日5時間48分46秒

となります。

恒星年とは何か

1太陽年は地球が太陽のまわりを360度1周する時間ではありません。ちょうど1周する日数を1恒星年といいます。すなわち1恒星年とは、天球モデルにおいて、太陽が地球を1周して再び天球の同じ位置に戻ってくるまでの日数です。現代では次が分かっています。

1恒星年 = 365.256363日
= 365日6時間9分10秒

1太陽年と1恒星年の差

図1 を見てください。夏至の日A を出発した地球は 1太陽年 = 365.2422日後に B にきます。B は次の年の夏至の日ですが、まだ完全には1周=360° 回っていません。Aまで戻るのが1恒星年です。図1 ではA と B に少し開きがありますが、時間にしてたった約20分の差しかありません。

太陽年と恒星年

古代では1年をどのように測定していたか?

シリウスの観測 〈古代エジプトの例〉

古代の人々がどのようにして1年を測ったのか見てみましょう。古代のエジプト人はシリウス(天狼星:てんろうせい)というとても明るい星に注目しました。シリウスが日の出の直前に東の空に輝く日を1年の最初の日と決めたのです。したがって古代エジプト人が測ったのは恒星年でした。驚くべきことに、古代エジプト人は1恒星年の小数点以下2桁は正確に測定していました。数えるのは日数、つまり自然数ですから、小数点以下2桁を正確に求めるには数百年必要です。実際古代エジプト人は3千年以上も観察を続けたと考えられています。

夏至の日の測定 〈古代バビロニアの例〉

古代人の多くは夏至の日の測定で1年を測っていました。したがって1太陽年です。バビロニアも1年は1太陽年ですが、太陽の観測と同時に星座の観測も行っていました。驚くべきことにバビロニア人は、太陽年と恒星年が一致しないことに気が付いていたようなのです。1太陽年が1恒星年より短いことを春分点移動といいます。この2つの差はとてもわずかです。この差に気づくにはやはり数百年以上もの長きに渡る観測データが必要だったものと思われます。

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1日の定義:1太陽日と1恒星日

太陽日とは何か

次に1日の長さを見てみましょう。太陽が南中してから次に南中するまでの時間を1太陽日(たいようじつ)といいます。普通1日といった場合は1太陽日のことです。上で述べたように「1太陽日(1日)= 24時間」と決められています。

1太陽日と1恒星日の差

1年の長さに太陽年と恒星年があったように、1日の長さにも太陽日と恒星日とがあります。〔 第5回 太陽の通り道:黄道 〕で、真夜中の 0:00 に南中している星を見ているお話をしました。同じ状況を思い出してください。図2 はその状況を表しています。ここで、A, B, C は地球、S は太陽で、P は観測者です。、真夜中の 0:00 に南中している星を見ているお話をしました。同じ状況を思い出してください。図2 はその状況を表しています。ここで、A, B, C は地球、S は太陽で、P は観測者です。

太陽日と恒星日

ある日の夜 0:00 に地球 A にいる観測者は P で南中している星 A’ をみています。C は1日後の 0:00 の地球です。P の裏側には太陽がありますが、観測していた星はもう南中していません。南中していたのは4分前で、B が4分前の地球です。ただし、“4分”というのは以前おおざっぱに見積もった概算で、今回はこの正確な値を計算てみましょう。C’ と B’ は A’ と同じ星なので、AA’, BB’, CC’ は平行です。AからC までの時間が1太陽日でした。これに対し、AからBまでの時間、つまり地球が360度自転する時間を1恒星日(こうせいじつ)といいます

地球の1年間の回転数

ここで注意することは、地球の1年間の回転数は 365.24回ではないということです。365は地球の南中した回数です。図3 を見てください。いま仮に地球は自転していないとします。P は観測者です。

1年の定義

左の夏至の日から1周してまたもとに戻ってきます。出発した夏至の日では太陽は南中していますが、右の冬至の日では太陽は真後ろにきています。つまり、地球は半周しています。したがって、太陽を1周してもとに戻ったとき、自転をしなくても地球は1回転しています。つまり地球の1年間の回転数は 365.24+1回 となります。

古代における1恒星日の計算

ここで、古代人の立場で、1恒星日を計算してみましょう。古代には正確な時計がありませんから、1日の長さを正確に測るすべはありません。しかし、1年の長さは日数ですから古代人にも数えられます。ある夏至の日から 100年間日数を数えたとします。この100年間の日数は 36524日だったとします。日数ですから小数はありません。100年間で36524日だったのですから、地球の回転数はこれに 100を加えなければなりません。つまり、

100年間の地球の回転数 = 36524 + 100回 = 36624回

1日=24時間ですから、36524日 = 36524 × 24 時間です。よって、

1恒星日 = 36524 × 24 ÷ 36624 = 23.9344692時間
 =23時間56分4秒

これは図2 で、C から B に至るのに約4分という前に見積もった概算と一致しています。

ではなぜ1太陽年と1恒星年がぴったりと一致しないのでしょうか。次のお話でこの理由を考えましょう。

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