第4回 天球とは?天体の位置や動きを表す仮想的な球をわかりやすく解説

天球モデルとは?

今回は前回のお話で述べた天球モデルをもう少し詳しく見てみましょう。図1 はこの天球を飛び出して、天球の外から天球を眺めていると考えてください。もちろん、現実には宇宙の外に飛び出すことなどできません。真ん中の小さな球が地球です。

図1:中央に地球を示す小さな緑色の球があり、その周囲に淡い水色で大きな天球を描いている。地球の自転軸を延長した細い黒線が天球を貫き、上端に「天の北極」、下端に「天の南極」の点がある。天の赤道は天球上を一周する太い黒い線で、傾いた経線は天球を縦に一周する実線、緯線は横に一周する円環として描かれている。各線には「天の赤道」「天の経線」「天の緯線」とラベルが付いている。

天球にも地球と同じように、北極、南極、赤道、… などがあります。それぞれに“天の”という形容詞がつきます。地軸の延長と天球との交点が天の北極天の南極です。この軸に垂直な、地球の中心を通る大円を天の赤道といいます。天の赤道は、地球の赤道を延長した平面が天球を切断する大円です。地球と同様に、天球にも天の緯線天の経線が定められます。天の経線は天の北極と天の南極を通る大円、天の緯線は回転軸に垂直な円です。したがって天球が回転すると、星々は天球と一緒に、天の緯線に沿って回転します。

いろいろな視点から見た地球

真ん中にある地球は、地軸の傾き方によって次に示す図2, 図3, 図4 の3通りの表現ができます。
図2 では地軸が垂直に描かれています。したがって、赤道は水平です。

図2:中央に黒い点で示した地球の中心を通る縦線が「地軸」、横線が「赤道」を表す。円は地球の断面を示し、地軸の上下両端と赤道線上に細長い横線が引かれている。背景は白、円は淡い水色のグラデーション。```  ご参考になれば幸いです。

図3観測者の視点で星々を観測するときに用います。

図3:円で地平線を表し、円の上端中央に「観測者」と矢印で示された点がある。円の中心から右上へ斜めに伸びる線の先に星マークがあり、さらにその線上より上方にももう一つ星マークが描かれている。円の中心から左下へ傾けた線が引かれ、円周上の別の点を通っている。背景に縦横の十字座標軸が配置されている。

図4太陽と地球の関係を述べるときに用います。

図4。画面中央に黒い点Oがあり、そこを通る垂直・水平の直線と、斜め上下に傾いた直線の計4本の直線で十字と×字が描かれています。点Oを中心に円が描かれ、その円周上の右側に「赤道」とラベルされた傾いた直線の端点が接し、左右の水平線上にオレンジ色の太陽アイコンが対称的に配置されています。円周の上部右寄りには黄色い星マークがあり、点Oから星までを結ぶ傾いた線が引かれています。Oを囲む4つの角のそれぞれに、ギリシャ文字のタウ(τ)が記されています。

観測地点の緯度

今回は図3について詳しく見てみましょう(以下の図3′を見てください)

図3’:中央に観測者の頭頂を表す小さな円と、その下に地面上の点A、さらにその下に球の中心Oが一直線上に並んでいます。Aの上方には小さな人型アイコン(「観測者」)が立ち、その更に上には垂直に伸びる線上に「T 天頂」の黒点があります。Aの右斜め上には黄色い星マーク「H」があり、これを結ぶ視線方向を示す細い線がOから星の方向へ伸びています。Oから左斜め上に向かうもう一本の細い線は球面上の点「R」に達し、その線と垂直上方(天頂方向)の線との間に青い扇形で角度φが示されています。水平線はAを通り左右に伸び、「S」(左)と「N 地平線」(右)の文字が配置されています。

図3′では地球の真上 A にあなた(観測者)が立っています。A を通る円の接線 SAN が地平線で、H は北極星を表します。宇宙規模で見ると、地球は点と見なされます。地平線が2本書かれているのはそのためです。H が2つ現れているのも同じ理由です。一つは A から見た北極星、もう一方は中心 O から見た北極星です。図3′は、地球を直線 OA と OH を含む平面で切断したものです。

円周上に点 R を、OR が地軸 OH と垂直になるようにとります。するとRは赤道上の点となります。R を通り地軸に垂直な地球の大円が赤道です。赤道と観測地点のなす角度 ∠AOR をこの観測地点の緯度といいます。つまり、緯度とはあなたのいる地点が赤道からどのくらい離れているかを示す角度です。以下では緯度を記号φで示します。観測者の真上 T を天頂といいます。天頂と北極星のなす角度を測ってもその地点の緯度が分かります。すなわち、

∠TAH = 90°– φ

となります。

星や太陽が「南中する」とは?

地球 図3 を天球 (図1) の中に置いたのが図5です。

図5(天球モデル)。半透明の球体で表された天球の中心に観測者Oがあり、Oを通る水平面との交わりとして東E・南S・西W・北Nが等間隔に配置されています。北の方角Nから天頂Tに至る天の子午線(黒い弧)が球面上に描かれ、その沿線上のやや下方に黄色い星Hが示されています。星Hから観測者Oに向かって垂直に細い直線が引かれ、視線方向を表現しています。また、Oから西WおよびOから南Sに向かう細い直線も描かれ、地平線上の視点を示しています。天頂Tには「T 天頂」、子午線には「天の子午線」というラベルがあります。

ここでは地球は1点 O となっていますが、あなたは点 O に立っていると思ってください。あなたをとりまく円は地平線で、地平線は天球の大円です。あなたの立っている真上Tが天頂で、北極星 H のある方向が北です。OH と OT を含む平面で天球を切断してできる大円を天の子午線といいます。N と S は天の子午線と地平線の交点です。EW はSN と直交しています。地平線上のE, W, S, N にある点をそれぞれ 東点西点南点北点と呼びます。言い換えると、天の子午線とは北点、天頂、南点を通る大円です。星や太陽が天の子午線を通過することを南中するといいます。今後このシリーズでは、混乱の起きる恐れがないときは、“天の”という形容詞は省略することがあります。

図5 は天球の中の様子を天球の外から描いていて、分かりづらいので、天球の中に入って南の夜空と北の夜空を見てみましょう。図6 は南の空です。

図6(南の空)。画面中央下に観測者 O があり、O から斜め上下に伸びる細い直線で左右の E(東)と W(西)を結ぶ線が地平線を示しています。E–W 間にはまず茶色の弧(地平線上の南点 S まで)が引かれ、その上には緑色の小さな弧が S と点 C を結び、さらにその外側に赤色の大きな弧が S と点 D を結んでいます。画面最上部には黒い半円が E から W を通り、頂点に T(天頂)が配置されています。T から S を経て E に至る黒い曲線が天球上の星の通り道を表し、その途中の点 C(内側の緑弧の終点)と点 D(外側の赤弧の終点)から観測者 O に向けて細い直線がそれぞれ描かれています。全体として、南の空における天頂 T、南点 S、星の異なる高度 C・D の位置関係と、それらから観測者への視線を示しています。

茶の線は地平線です。SとTを通る線は子午線です。子午線はOを中心とする大円の一部です。緑の円はある星の軌跡で、その星 C は現在南中しています。∠COS を星 C の迎角、∠COT を星 C の天頂距離といいます。天の赤道と子午線の交点をDとします。すると次が成立します。ここでφ(ファイ)は上で述べた緯度です。

∠DOT = φ,  ∠DOS = 90°– φ

図7。画面中央下に観測者の位置 O があり、O と水平線上の左右両端 W(西)と E(東)を結ぶ直線で地平線を表しています。W と E の間には茶色の弧が描かれ、その中央に N(北点)が示されています。O から N、さらに少し上方にある点 H(北極星の天球上の位置)へ向けて細い直線が引かれています。点 H の周りには小さな同心円が描かれ、その外側にやや大きな同心円があります。画面上部には W–E 間で大きく弓を描く半円があり、その頂点に T(天頂)が配置されています。T から N へ向かう経路として、外側の半円上を青い曲線が描かれています。全体として、北の空における天頂 T、北点 N、北極星 H の位置関係と、星が天球上を移動する軌跡を示しています。

図7 は北の空です。Hが北極星、Nが北点、Tが天頂です。N, H, T を通る大円が子午線です。∠HON が現在地の緯度φです。北の空では、星は北極星のまわりを円運動し、子午線を1日に2回横切るものが存在します。この星は地平線の下に決して沈むことがありません。このような決して沈むことのない星を周極星といいます。

いまから4600年以上も前のエジプトでは、すでに周極性の存在が知られていました。周極星は「決して死ぬことのない星」として、ファラオたちは死後、周極星になることを願っていました。エジプトを流れるナイル川は南北に長い川です。毎日夜空を眺め、ナイル川を南北に旅するエジプト人にとって、南と北では周極星が違うことに気づくのは当然のことのように思われます。何しろエジプト文明は2千年以上も続くのですから。

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