現在私たちが知っている60進数は時間と角度ぐらいで、皆さんは60進数の計算はあまり経験がないと思います。〔4.バビロニアの60進法〕では足し算を見ましたが、60進数の掛け算はどのように計算していたのでしょうか。60×60の掛け算表を使っていたのでしょうか。60×60は表が大きすぎます。計算の仕方を見ると、バビロニアの数は純然たる60進数と見るより、少し違った見方をした方がよいかもしれません。60進数の計算方法を学び、60進数という記数法をどのように解釈すればよいか考えてみましょう。
数の計算盤:古代ギリシア・中世ヨーロッパ・日本のソロバン
本題の60進数の計算方法に入る前に、まずは中世ヨーロッパを見てみましょう。ローマ数字では、1 ~ 9 と10 ~ 90 は次のように書きます( 図6.1 )。

〔 1.たばね法 〕でも述べましたが、古代の人々は計算盤を使って計算を行なっていました。計算盤にはいろいろなタイプのものがあります。図6.2(a) はギリシアの計算盤、図6.2(b) は中世ヨーロッパで使われた計算盤です。図6.2(a) の計算盤では、右端の欄から順に、一, 五, 十, 五十, 百, 五百 の位を表します。

図6.2 (b) の計算盤では、計算玉を線上か、あるいは線と線の間に置きます。一番右の線は一の位、次の線が十の位、次が百、次が千の位です。線と線の間には計算玉を一個置くことができます。一番右の線と二番目の線の間は五、二番目と三番目の間は五十、三番目と四番目の間は五百を意味します。一、十、百、… の位は 5個計算玉がたまると上の位に繰り上がる5束法、五、五十、五百、… の位は 2個計算玉がたまると上の位に繰り上がる2束法と見ることができます。したがってローマ数字は、2束法と5束法が規則的に交互に繰り返す 2・5進法と見ることができます。

次に日本のソロバンを見てみましょう。図6.2 (c) は日本のソロバンです。日本のソロバンも五の珠と一の珠がありますが、これらは別々に用いられるのではなく一体として用いられています。

また、日本では奈良時代には九九が使われていたようです。このことは万葉集に言葉遊びとして九九が出てくることから分かります。柿本人麻呂、大伴家持、山部赤人などといった有名な歌人たちは、「二二を“し”、十六を“しし”、八十一を“くく”」と読ませています。このように奈良時代では、少なくとも万葉集を詠む人々にとっては、九九は常識だったようです。九九が存在したということは、「複数桁×複数桁」の掛け算のアルゴリズムが知られていたことを意味します。「一桁×一桁」や「複数桁×一桁」の掛け算では九九は必要ないからです。
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