10.逆数の概念。割り算とは何か

割り算とは何か?

速算術:5倍するにはどう計算するか?

むかしは速算術といって計算を簡単に行う方法がたくさんありました。現在は電卓があるので、皆さんはこのような方法をあまりご存じないかもしれません。たとえば、5倍するのは「10倍して2で割る」、25倍は「100倍して4で割る」など。少しやってみましょう。

26×5 = 260÷2 =130,
26×25 = 2600÷4 = 1300÷2 = 650

古代の人は「2で割る」操作は得意でした。また割り算も、「5で割る=2倍して10で割る」、「25で割る=4倍して100で割る」と計算できます。

26÷5 = 52÷10 = 5.2,
26÷25 = 52×2÷100 = 1.04

10 には1 と 10 を除くと約数は 2 と 5 だけですが、 60 の約数は

1, 2, 3, 4, 5, 6, 10, 12, 15, 20, 30, 60

と 12個もあります。これを利用してバビロニア人は 割り算や掛け算を簡単に計算する方法を開発していました。

逆数の概念

半分に割るという概念は、かなり古いと予想できます。多くの言語で“半分”という意味の単語が 2 という数詞とは別に存在するからです。おそらく 1/3 とか 1/4 という概念も古くからあったと思います。これを押し広げれば「自然数で割る」という概念を得ることができます。しかしバビロニア人が扱ったのは「自然数を自然数で割る」だけではなく小数も扱ったのです。小数を含む数の割り算をバビロニア人はどのように考えていたのでしょうか。出土した粘土板の数学文書から判断すると、おそらく次のようだと推測できます。b を a で割った値を b/a で表すと

b/a とは a倍すると b となる数のこと

となります。現在の私たちは方程式が使えます。現代風にいうと次のようになります。

方程式 ax = b の解を b/a と書く

言い換えると、「 b を a で割るとは a倍すると b となる数を求めること 」となります。

現在の私たちは逆数という概念を持っています。数 a と b に対し

ab = 1

が成立するとき、b は a の逆数といいます。a の逆数を 1/a とか a-1 と書きます。現在の私たちは「aで割るとはaの逆数をかける」ということを知っています。驚くことに、バビロニア人もこの逆数という概念を持っていたのです。バビロニア人がどのようにしてこの概念を獲得したか想像してみましょう。

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バビロニアの小数

バビロニアには小数点やゼロがなかった

〔8.バビロニアの小数〕で述べたように、バビロニア人は1より小さい数としての小数という概念を持っていました。ただし、バビロニア数学では、小数を表すのに小数点を用いませんでした。小数点がどこにあるかは、それを読む人が勝手に解釈をしたのです。日本のソロバンでも、小数を扱いますが、ソロバンには小数点が書かれていません。使用者がかってに小数点を設定して用います。

  バビロニアの記数法は小数点がないこと以外に、もう一つ重大な欠点を持っていました。それはゼロという記号を持っていなかったことです。紀元前3世紀ごろになってやっと導入されましたが、それまではゼロの代わりに“空白”が用いられました。

これらは重大な欠点でしたが、ちょっとした利点もありました。それは 60進数の a と、a の 60倍、602 倍、1/60、1/602、 … の区別がつかないことです。区別がつかないことは、言語としては欠点ですが、一方 a と 60a、602a、a/60、… とを 同一視 することができたのです。

本連載で用いている60進法の記法では、03;3 を、3;00;3×60 を、0.30;3/60 を表しますが、楔形文字で ||| と書いた場合は次のどれを表すかがあいまいです。

3;00;00;   3;00;   3;   0.30;  0.00;30;

このどれを示すかは文脈から判断します。しかし各々 60倍の差がありますから、実用上は、問題は余り起きなかったことと思います。

有限60進小数:バビロニア人は小数を正確に理解していた

バビロニア人は、a×c = 60 となる自然数の組 a, c をいくつも見つけました。たとえば 4 と 15 としましょう。27 を任意の数とします。27を4倍し、さらに15倍してみましょう。

27×4 = 108 = 60+48 = 1;48;   
1;48; × 15 = 15;720; = 27;00;

バビロニア数学には小数点もゼロもなかったので 27;00; は 27 と同じ表記になります。つまり、任意の数 x に対して、

x×a×c = 60x

となりますが、x と 60x は同じ表記なので、a倍しさらにc倍すると元に戻ることになります。

 「 b 割る a 」とは、x × a = b となる x を求めることです。この式の両辺に c を掛けると 60x = b × c となります。60x の 60倍を無視すると、

「 ( bを ) a で割る 」=「 ( bを ) c倍する 」

となります。上の例でいうと、「27を15で割ること」は「27 を4倍する」ことになります。ただし、小数点を加味し 1.48; としなければなりません。

自然数 a と整数 n に対し a×60n と表すことができる数を有限60進小数と呼びます。a を整数部、60n指数部と呼びます。a は10進数で表すことも60進数で表すこともあります。たとえば

32;00;00; = 32×602
0.00;03;  = 3×60-2

は有限 60進小数です。以下ではa×60n と書いた場合 a は 60の倍数ではないとします。

「有限60進小数」と書くと難しそうに見えますが、60進表現のどこか一カ所に小数点をつけて表される数のことです。バビロニア人は、小数点を表記することはありませんでしたが、数の概念として小数を正確に理解していました。つまり、バビロニア人が扱うのは、表記上は整数だけですが、実質的に60進小数を扱っていました。

以下では私たちも、バビロニア人にならって、有限60進小数の指数部をよく省略します。すなわち、有限60進小数 a といった場合、暗黙裡に指数部 60n があるものとします。

小数の四則演算

10進小数の足し算・引き算

小数表現を整数部と指数部に分けることによって、四則演算を整数の演算に還元することができます。足し算や引き算では、指数を小さいほうに合わせます。

480+1.2 = 4800·10-1 + 12·10-1 = 4812·10-1
480 – 1.2 = 4800·10-1 – 12·10-1 = 4788·10-1

10進小数の掛け算・割り算

掛け算と割り算の場合は、指数部は足し算と引き算になります。

480×1.2 = 48·101 × 12·10-1 = (48×12)·101-1 = 576
480÷1.2 = 48·101 ÷ 12·10-1 = (48÷12)·101-(-1) = 4·102

60進小数の足し算・引き算

60進小数の場合もまったく同様です。足し算や引き算では、指数を小さいほうに合わせて以下のように計算します。

48;00; + 1.20; = 48;×601 + 1;20;×60-1
= 48;00;00×60-1 + 1;20;×60-1= 48;01;20;×60-1

48;00; – 1.20; = 48;00;00×60-1 – 1;20;×60-1
= 47;58;40;×60-1

60進小数の掛け算・割り算

掛け算と割り算の場合は、指数部は足し算と引き算になります。

48;00; × 1.20; = 48;×601 × 1;20;×60-1
= (48;×1;20;)×601-1 = 48×80
= 3840 = 1;04;00; = 1;04;×60

48;00; ÷ 1.20; = 48;×601 ÷ 1;20;×60-1
= (48;÷1;20;)×601+1 = 48/80 ×602 = 36×60

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