第8回 星の座標『赤緯と赤経』:天球上の星と地球の関係
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星の座標
占星術にも使われる黄道十二宮
古代バビロニアの人々にとって、夜空にまたたく星々は時計であり暦(こよみ)でした。しかし、天球には星以外になんの目印もありません。そこで星々をグループに分け、グループの形状から星座というものを考え出しました。さらに黄道を12に分けてそれぞれに星座を割り当てました。これを黄道十二宮といいます。この12の星座のうち8つまでが動物の名前がついているので、黄道の沿った南北に8度~9度の部分を獣帯(じゅうたい)といいます。日の出前に東の空に輝いていた星座は、1ヵ月経つと次の星座に入れ替わります。太陽はこの12宮の星座を1年かけて回ります。
黄道を基準とした座標系
星座を指定すれば、黄道における位置が決まります。しかしこれだけでは黄道から離れた位置にある星の位置を指定することはできません。天文学の発展にともない、バビロニア人は一周 360° という角度を導入します。これによって黄道を基準とした座標系が定まります。これを黄緯と黄経といいます。現在私たちが地球の座標系として用いている緯度と経度のルーツです。
現代の天文学では、黄道を基準とした黄緯と黄経ではなく、天の赤道を基準とした赤緯と赤経が用いられています。原理は黄緯と黄経とまったく同じです。以下では赤緯と赤経について説明しましょう。
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赤緯と赤経の定義
赤緯とは
赤緯と赤経は星々と地球との関係であり、太陽とは関係ないので 図1 のように軸を垂直に表します。ここで、H は天の北極、H’ は天の南極、赤色の大円は天の赤道です。天の北極と天の南極を通る大円を天の経線、天の赤道と平行な小円を天の緯線といいます。
赤緯は地球の緯度と同じで、天の赤道となす角度です。図1 の点 A の場合 ∠AOC です。ここで C は赤道と A を通る経線との交点です。したがって天の赤道は 0度、天の北極は 90度、天の南極はマイナス90度です。地球の緯度の場合は、赤道より南は“南緯~度”と表現しますが、天文の場合は“マイナス~度”と表現します。
赤経とは
赤経は、春分点(春分の日の太陽の位置)を 0度とし、東回りに測ります。図1 で、B を春分点とすると、A の赤経は ∠BOC です。
このように、赤緯と赤経の定義は簡単なのですが、実際に計測しようとすると少し面倒です。〔第7回 緯度による違い〕で見たように太陽や星々の動きは観測者の緯度によってずいぶん違います。また、星々は眺めている間に移動してしまいます。
赤緯の計測方法
天の赤道と緯度の関係
まず赤緯から見てみましょう。図2 は地軸 NOS を垂直にした地球です。A は観測者のいる地点で、地球を A, O, N を含む平面で切断したものです。記号を節約するため、同じ記号が複数現れています。H は共に北極星を表します。OR の R は地球の赤道上の点、AR の R は天の赤道上の点です。SAN は地平線で、この N は北方を、S は南方を示します。
(地球の)緯度とは、赤道とのなす角のことで、φで示します。すると次が成立します。
子午線上の位置と赤緯の関係
星の日周運動の軌跡は軸に垂直な天の緯線ですから、時間によって変化しません。ある星の赤緯を計測するにはその星が南中するのを、つまり天の子午線上に来るのを待ちます。図3 でSTN は子午線、R は天の赤道、B, C, D は星の位置です。
赤緯はR となす角ですから、( 1 ) か ( 2 ) を使って、子午線上の位置によって次のように計算します。
ただし B の場合、天の赤道より下にあるので、マイナスの符号をつけます。
( 1 ) と ( 2 ) の φ は観測値の緯度です。緯度と経度はインターネットで簡単に調べることができます。例えば東京都は、北緯35度40分、東経139度40分です。また、次も覚えておくとよいでしょう。
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赤経の表し方
角度の単位としての”時”
厳密には赤経0度は春分の日の昼の12:00 の太陽の方向です。この方向は、秋分の日の夜の 0:00 の真南にあたります。夜のほうが直観的に分かりやすいので秋分の日の夜 0:00 で説明しましょう。
天文学における赤経は円一周を360度とした“度”ではなく、円一周を 24時とした“時”で表します。すなわち、1時 = 360度 ÷ 24 = 15度 とした“時”を単位としています。秋分の日の 0:00 に南中している星座があるものと仮定します。この星座を0時の星座と呼びます。1時間後に南中する星座が1時の星座、2時間後に南中する星座が2時の星座、… と続けます。24時間後にはまた0時の星座が戻ってきます(厳密にいうと、0時の星座ではなく 24/365時の星座です)。
“時”は時間の単位でもありますが、天文学ではこのように角度の単位のこともあるのです。円1周 360度ですから、角度としての“時”は
となります。
本連載での赤経の定義
角度を表す単位としての“時”は、慣れないと少しわかりづらいので、このシリーズでは用いないことにします。すなわち、春分の日の正午の子午線の赤経を 0度とし、東回りに1周360度と定めます。〔黄道:太陽の通り道〕で述べたように、同じ星が次の日に南中する時刻は正確に24時間後ではなく、1日に4分ずつ早くなります。たとえば今日0時00分に南中した星座は、次の日には 11時 56分に南中します。0時00分の子午線の赤経は、1日約1度増加し(1年360日として計算しています)、一年で元の赤経に戻ります。つまり、地球の経度と同じように、赤経は天球を北極と南極を極とする大円で360等分しています。
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