ユークリッド(エウクレイデス) とは?
ユークリッドは、古代ギリシャを代表する数学者のひとりで、今日の数学の基礎ともいえる大著『原論』の著者として広く知られています。
この『原論』は、論理的な証明を体系化した初の本格的な数学書であり、のちの数学だけでなく、哲学や自然科学にも大きな影響を与えました。
「ユークリッド」という名前は英語読みで、ギリシア語では「エウクレイデス(Εὐκλείδης)」と発音されます。
彼は紀元前300年頃、エジプトのアレクサンドリアで活動していたとされますが、その生涯や人物像については、はっきりした史料が少なく、詳しいことはほとんどわかっていません。
時代背景 ユークリッド(エウクレイデス) が活躍した時代はどんな時代?
ヘレニズム時代とアレクサンドリア
― ユークリッドが活躍した時代背景 ―
ユークリッドが活躍したのは、古代ギリシャのヘレニズム時代と呼ばれる時代です。この時代、文化の中心はアテナイ(ギリシャ本土)から、エジプトのアレクサンドリアへと移っていきました。
アレクサンドリアは、マケドニア人のプトレマイオス朝によって統治され、地中海各地、西アジア、インド、黒海北岸など、さまざまな地域から人々が集まる国際的な学術都市(コスモポリス)となっていました。
この都市には、王立研究所「ムセイオン」と、それに付属する世界最大級の図書館が設けられ、天文学や数学などの科学が大きく発展する土壌が整っていたのです。
ユークリッドも、このアレクサンドリアで学問的な活動を行っていたとされ、同時代の科学者には、あのアルキメデスもいます。
幾何学の礎を築いたベストセラー 『原論』の著者
ユークリッドは、古代ギリシャ数学の集大成ともいえる名著『原論』の著者として広く知られています。
この『原論』は、幾何学を体系的にまとめた最初の教科書であり、後世に大きな影響を与えた歴史的名著です。
「聖書以外で、世界中でもっとも多く読まれた書物」と称されることもあり、ヨーロッパでは中世から近世にかけて、多くの数学者がこの本で幾何学を学びました。また、長らく大学の数学教科書としても使われ続けました。
ユークリッドがこの書物の中で構築した幾何学の体系は、のちに「ユークリッド幾何学」と呼ばれるようになります。幾何学とは、図形や空間の性質を論理的に扱う数学の分野であり、『原論』はその出発点を築いた不朽の一冊といえるでしょう。
現代数学の礎となったユークリッドの原論を、動画でわかりやすく解説しています。ぜひご一読ください▼
Web連載 動画でわかる!ユークリッドの幾何 1-1.古代ギリシアの数学と現代の数学
PICK UP!!こちらのWeb連載もおすすめです

ユークリッドの互除法
ユークリッドの互除法は自然数(または整式)の最大公約数を求める方法の一つです。詳しい解説は以下に書いています▼
関連記事以下の記事で詳しく解説しています++。
ユークリッドの『完全数の定理』
完全数(かんぜんすう)とは、自分自身を除く約数の和が、その数自身に等しくなる自然数のことです。この概念は、古代ギリシャのピタゴラス学派において神秘的な意味をもつ特別な数とされていました。
たとえば 6 の約数は 1, 2, 3, 6 ですが、6自身を除いた 1 + 2 + 3 = 6 となるため、6は完全数です。同様に、28 や 496 なども完全数として知られています。
ユークリッドは著書『原論』の中で、完全数に関する定理を次のように証明しています。
2n+1 が素数なら、(2n+1 – 1 )は完全数である。
この証明は以下の記事で詳しく解説しています▼
完全数とは?ピタゴラス学派が大切にした完全数の性質や定理
関連記事以下の記事で詳しく解説しています++。
素数は無限個存在する – ユークリッドによる原論の証明
「素数は無限個存在する」という定理は、古代ギリシャの数学者ユークリッドが著した『原論』の中ですでに証明されています。
原論では現代のように「無限個ある」とは書かれておらず、「素数の個数はいかなる個数の素数よりも多い」という形で記述されています。
これはつまり、「どんなに多くの素数を挙げても、それよりもさらに多くの素数が存在する」ということを意味します。
“無限にある”ことを示すには、「任意に定められた個数よりも多い」ことが言えれば十分です。
実際、ユークリッドの証明ではわずか3個の素数を例に取り、それより多くの素数が存在することを示しています。
このシンプルかつ論理的な証明は、後世の数学者たちから「最も美しい証明のひとつ」と称され、今なお多くの数学書に引用されています。
素数に関する解説はこちら▼
関連記事以下の記事で詳しく解説しています++。
ユークリッド(エウクレイデス) の名言

幾何学に王道なし
There is no royal road to geometry
ユークリッドが残した名言の中でも、特に有名なのがこの言葉です。
あるとき、プトレマイオス王がユークリッドに幾何学を学んでいる際、「もっと簡単に、近道で学ぶ方法はないのか?」と尋ねたといいます。
そのときユークリッドは、こう答えました。
「幾何学に王道はありません」
これは、たとえ王であっても、学問に近道はないという意味です。このエピソードは、努力と理解を積み重ねることの大切さを語るものとして、今日でも引用され続けています。
ユークリッドはプトレマイオス王に幾何学を教えていました。プトレマイオス王に「幾何学を学ぶのに近道はないのか?」と聞かれたユークリッドは、「幾何学に王道などありません」と答えたといいます。たとえ王様であろうとも学問を学ぶための近道はないとうエピソードです。

あの学生はお金をほしがっているようだから、渡しておきなさい
あるとき、ユークリッドのもとで学んでいた学生が、こう尋ねました。
「この命題は、いったい何の役に立つのですか?」
ユークリッドは、その問いには何も答えませんでした。しかしその後、そばにいた使用人にこう告げたといいます。
「あの学生は、お金がほしいようだから渡しておきなさい。」
このエピソードは、学問は実用のためだけに学ぶものではないという、ユークリッドの哲学を象徴する逸話として語り継がれています。