完全数

完全数 〜ピタゴラス学派が大切にした数〜 のお話

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“数”の歴史

私たちは、生まれたときから数に囲まれて成長してきました。ですから、数などは誰でも知っているあたりまえのものだと思っている方が多いのではないでしょうか。また、サルやオウムでも数を認識できると言われています。しかしサルとかオウムは百とか千といった大きな数は理解できませんし、偶数とか素数などの理解はとても無理です。私たち人間は非常に長い年月をかけて“数”という概念を作り上げてきました。古代の人々にとって“数”とはどのような存在だったのでしょうか。

古代ギリシアの人々は数にいろいろな概念を導入し、数を分類しました。偶数や奇数、平方数や立方数、素数や完全数、などです。これらの数の間にはいろいろな不思議な関係が見つかりました。また、2, 3, 4, 5, … などの一つ一つの数には固有の意味があり、神秘的な魔力があると考えていました。これを“数神秘主義”といいます。この“数神秘主義”は中世のヨーロッパに大きな影響を与えました。しかし、こういったオカルトだけではなく、数の間に成り立つ関係は、近世の人の知的な好奇心を惹きつけ、数論という分野を生み出したのです。ここでは後世に最も大きな影響を与えた素数と完全数についてお話しましょう。

はじめに、このお話に出てくる用語を復習しておきましょう。a, b, c を自然数とします。a=b×c が成立するとき、a は b の倍数、b は a の約数といいます。任意の自然数 a は、1 と a を約数として持ちます。1 と自分自身以外に約数を持たない数を素数と言います。最初の素数は 2 で、偶数の素数はこの 2 だけです。

完全数ってどんな数?

古代ギリシア人は、偶数とか平方数といった用語の厳密な定義を与えました。定義を与えるということは概念を創造するということで、これによって理論が作られていくことになります。
ピタゴラス学派が大切にした数の中には、『完全数』と呼ばれるものがあります。完全数とは、自分自身を除く約数の和となる数のことです。たとえば6の約数は 1, 2, 3, 6 で、6以外の和は 1+2+3=6 となるから、6は完全数です。28 も 1+2+4+7+14 = 28 となりますから完全数です。現在でも分かっている完全数は非常に少なく、10進数で9桁以内の完全数は次の4つしかありません。

完全数

ピタゴラスが知っていた完全数は 6 と 28 だけだったかもしれません。正確な時期はわかりませんが、ヘレニズム時代には6 と 28 のほかに、496 と 8128 という2つの完全数が見つかっています。5番目の完全数は、1456年になってやっと見つかりましたが、これは33,550,336 という途方もなく大きな数でした。

6 とか 28 はともかく 496 とか 8128 のような数が完全数であることを、コンピュータもない昔に、どのようにして見つけたのでしょうか。当てずっぽうにしては数が大きすぎます。古代の人々がどのように数に親しんでいたか、ようすを見てみましょう。

倍々に増えていくと・・・?

古代人の数に関するお話の中には、倍、倍、倍と何度も2倍を繰り返すと、とてつもなく大きな数になるというお話がよくあります。まず、指数関数の説明をしておきましょう。
数aの2乗はa×a、3乗はa×a×a、一般にaのn乗はaをn個掛けたものです。aのn乗を指数関数といいます。

累乗とは何か

もちろん指数とか関数などという概念は古代にはありませんが、次のような数列は、古代ギリシアだけでなくいろいろな古代文明の文書史料に出てきます。

指数関数

たとえば、一つがいのネズミが一晩に一つがいの子供を産むとします。二日目は2つがい、3日目は4つがいと増えていきます。「30日後には何つがいになるでしょうか」という問題です。答えは、”2の30乗”つがい、約 10億つがいとなります。いわゆるネズミ算です。

これと同様のお話は、エジプトや古代インドや中国などにもありますから、おそらくどこにでもあったのだと思います。日本のお話を紹介しておきましょう。むかし秀吉のお伽衆の一人に曽呂利新左衛門という知恵者がいました。あるとき秀吉から褒美をもらえることになりました。「何でも好きな褒美をやろう」と言われます。新左衛門は将棋盤を前に置き、次のように答えたそうです。「最初の日はお米一粒をもらいます」といって、将棋盤の端のます目にお米一粒を置きます。「次の日は、前日の二倍の二粒をもらいます」といって、次のます目に二粒のお米を置きます。「このようにして毎日前日の2倍のお米を、ます目の数だけの日数、つまり81日間もらいたいと思います」

秀吉はなんて欲のない男だと思いました。果たしてそうでしょうか。新左衛門はどれくらいのお米をもらえるのか、実際に計算してみましょう。

ネズミ算

数列 (1) はコンピュータではよく現れるので、次のように「ニ、ヨン、ハチ、イチロク、ザンニ、ロクヨン、イチニパ、ニゴロ、ゴイチニ」のように暗記しておくと便利です。また、以下の関係を覚えておくと、だいたいの数を見積もることができます。

指数関数

数を並べたものを数列といいます。また数列の和を級数といいます。指数を使って (1) の数列を書き換えると次のようになります。古代にはゼロはありませんが、aの0乗は1と定められています。

指数関数

数列 (2) の n 項までの和は次のようになります。

指数関数

古代にはこのような便利な式はないので、すべて言葉で表していました。(3)では「任意の自然数を表す変数n」が使われていますが、古代にはこのような表現方法はないので、常に具体的な数値(たとえば 3 とか 4)を使って表します。それにもかかわらず、古代でも (3) のような公式を理解していたようです。

指数関数

図1 は (3) を図で証明したものです。小さい正方形をマスと呼ぶことにします。マスの個数は (a), (b), (c), (d) で、2, 4, 8, 16 と、倍々と増えていきます。次に、白いマスを除いて考えます。すると、色のついたマスの数は (a) は 1、(b) は 1+2、(c) は 1+2+4、(d) は 1+2+4+8 となります。両方を合わせると、(d) は

指数関数

を表すことになります。このように古代ギリシアの人々は図形の概念を使って様々な証明を行っていました。

完全数の定理

さて、今回のテーマ「完全数」のお話に戻りましょう。
古代ギリシアの数学者ユークリッドは『原論』の中で次の定理を証明しています。

完全数の定理

先ほど述べた2つの完全数496 と 8128 について詳しく見てみることにしましょう。これらは次のように表すことができます。

完全数の定理

「完全数の定理」がn=4 のときに成り立つことを示します。

完全数の定理

と言っています。M は素数なので、M の約数は 1 と M だけです。16M の約数を全部あげると、

完全数の定理

となります。16M を除いた総和を計算すると、

完全数の定理

ここで式 (3) を使います。すると

完全数の定理

となり、496を除いた約数の総和が469になる、すなわち496 が実際に完全数であることが分かりました。
上の証明では n=4 の場合を示しましたが、この証明は準一般的な証明となっていて、一般のnに対しても成立します。

これまで現在の数学を使って説明してきました。数学史の専門家はよく、「古代の数学を述べるのに、現代の概念や道具をもいいてはならない」と、注意しています。上ではこの“おきて”をだいぶ破っています。
第一に、今回の説明では数式を使いました。もちろん古代ではこのような数式はありません。

ここで『原論』ではどのように表現されているのか紹介したいのですが、重大な理由があって簡単に説明することはできません。それは、現代の私たちが持つ“数”の概念と、古代ギリシア人の“数”の概念がかけ離れて違うからです。『原論』の最初の方(第I巻から第IV巻まで)は、きれいに整理され美しい理論となっています。しかし、第V巻以降は、複雑でだんだん難解になってきます。上の『完全数の定理』は第IX巻の36番目の命題としてでてきますが、この命題にたどり着くまでに多くの命題を証明しなければならないのです。

実は私たちが現在の”数”という概念に到達するまでには何千年もの月日を必要としたのです。ですから、「数学が難しい」と思っている方が多いのは当然なことのように思います。近世の初めでも、ヨーロッパの大学では「分数は、途中で投げ出したくなるほど難しい学問」だったのです。

今回のお話では、完全数の性質や、ユークリッドが証明した「完全数の定理」についてご紹介しました。しかし古代ギリシア人はどのようにしてこの定理を思いついたのでしょうか。古代ギリシア人は「計算が苦手だった」といわれます。計算が苦手なギリシア人が、どのようにしてこのような定理を発見し、8128 のような数が完全数であることを見つけたのでしょうか。これはエジプト式算法に秘密があるようです。このお話はまた別の機会にご紹介したいと思います。

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