黄金比
用語
Golden Ratio(Golden Section)

黄金比

線分を「短い部分:長い部分=長い部分:全体」となるように分けたときの比。
ひとことで言うと

線分を特別な分け方で分けたときに現れる、古代ギリシアから知られる比。

黄金比とは

この用語の要点
  • 線分を「短い部分:長い部分=長い部分:全体」となるように分けたときの比
    • その値は φ = (1+√5)/2 = 1.618…
    • 古代ギリシアでは「外中比」と呼ばれた

黄金比は、美術や建築、デザインの分野でよく取り上げられる比です。数学の上では、線分をある特別な方法で分けたときに現れる比として定められます。

線分ABを点Cで分け、短い部分をa、長い部分をbとした図。a:bとb:(a+b)が等しくなる分け方が黄金分割。

線分ABを点Cで分割し、短い部分ACの長さをa、長い部分CBの長さをbとします。このとき次の関係が成り立つように分割することを黄金分割といい、そのときの比a:bを黄金比といいます。

a:b = b:(a+b)

式から値を求める

この式を「外項の積=内項の積」の関係で変形すると b²=a×(a+b) となり、両辺をa²で割ってx=b/aと置くと、

x² = 1 + x

という2次方程式が得られます。この正の解が

φ(ファイ)=(1+√5)/2=1.6180339887…

であり、1:φ=1:1.618…が黄金比になります。なお、この b/a の値そのものは黄金率と呼ばれます(逆数の a/b を黄金率と呼ぶこともあります)。

小数点以下がそろう

φは x²=1+x の解なので、φ²=φ+1 が成り立ちます。この式の両辺をφで割ると φ=1+1/φ、つまり 1/φ=φ-1 です。電卓で確かめてみてください。

φ = 1.6180339887…
φ² = 2.6180339887…
1/φ = 0.6180339887…

3つとも小数点以下がそろいます。2乗しても逆数をとっても、小数の部分が変わらない数です。

黄金長方形と黄金螺旋

縦と横の長さの比が黄金比になっている長方形を「黄金長方形」といいます。黄金長方形から短辺を一辺とする正方形を切り取ると、残った部分もまた黄金長方形になります。同じ構造が縮小されながら繰り返される、再帰構造を持っているのです。

この操作を繰り返しながら各正方形の対角に四分円状の曲線を描いていくと、中心に向かって渦を巻く「黄金螺旋」が現れます。

もうひとつの比「白銀比」

黄金比と並べて語られることが多いのが白銀比です。1:√2(およそ1:1.414)という比のことで、日本では「大和比」とも呼ばれます。

この比の長方形には、長い辺を半分に折ると、また同じ形の長方形になるという性質があります。A4・B5といった紙の規格は、この性質にもとづいて作られています。だからA4を半分に折るとA5になり、かたちが崩れません。

日本の伝統的な建築や仏像にこの比が使われている、という説明もよく見かけますが、どこまで確かなのかは分かっていません。

フィボナッチ数列との関係

1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, …と続くフィボナッチ数列フィボナッチ数列2つ前の項と1つ前の項を足して次の項を得る数列。1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34… と続く。詳しく見る →(前の2つの数を足すと次の数になる数列)の隣り合う項の比(13÷8、21÷13など)を取っていくと、その値は次第に黄金比φ≒1.618…に近づいていきます。

ヒマワリの種の螺旋や松ぼっくりの鱗片の配列など、自然界の構造にもフィボナッチ数列や黄金比が現れることが知られています。

さらに深掘り

「黄金比」という呼び名は意外と新しい

現在でこそ「黄金比」という呼び名が広く使われていますが、この比が「黄金」という言葉と結びつけて呼ばれるようになったのは、古代やルネサンスよりもずっと後のことです。

古代ギリシアの幾何学では、この比は「外中比」と呼ばれ、ユークリッドユークリッド「ユークリッド幾何学」でおなじみの幾何学の父詳しく見る →の『原論原論(ストイケイア)古代ギリシアの数学者ユークリッドが著した数学書。定義・公準・共通概念から出発して命題を積み重ねる構成で、幾何学から数論までを体系化した全13巻。詳しく見る →』にもその名前で登場します。比そのものは古代からある一方で、「黄金比」という呼び名だけが新しい、というわけです。

もうひとつ、古代ではこの比を「数」ではなく「線分の分け方」として扱っていた点も押さえておきたいところです。当時のギリシアでは√5やφ(ファイ)のような無理数無理数分子・分母がともに整数の分数a/bの形で表せない実数。円周率π、√2、自然対数の底eなどが代表例で、小数にすると無限に非循環に続く。詳しく見る →を数とは見なしていなかったため、φ=1.618…という数値を計算して使っていたわけではありません。

ポゥじい博士の見立て

しばしば語られる「エジプト人がロープを使って黄金分割を作図した」という逸話じゃが、わしはこれを後世に作られた話ではないかと見ておる。

理由はこうじゃ。この作図がエジプトで行われたという証拠は、今のところ見つかっておらん。もしエジプト人がこの方法を使ったと言うのなら、「どうやってこの方法を思いついたのか」「そもそもなぜ黄金分割が必要だったのか」も合わせて示す必要があるじゃろう。

古代の数学史の記述には、後世に書き足されたものがかなり混じっている可能性がある。そう考えておくくらいが、ちょうどよいのかもしれんな。

ピラミッドの「黄金比」を確かめてみる

ピラミッドをめぐっても、よく語られる話があります。底面積と、4つの側面の面積の合計との比が黄金比になっている、というものです。

確かめてみましょう。傾きが 4 : 3 のピラミッドを考えます(古代エジプトで傾きを表す単位でいうと、セケド5;1/4にあたります)。底面の1辺の半分を3、高さを4とすると、側面の斜めの高さは5です。断面に現れるのは、3-4-5の直角三角形です。

底面の1辺は 3×2 = 6 なので、面積はこう計算できます。

底面積 : 側面積 = 36 : 60 = 3 : 5

出てきたのは 3 : 5 です。割ってみると 5 ÷ 3 = 1.666… で、φ = 1.618… とは少しずれています。黄金比そのものではありません。

ポゥじい博士の見立て

では何も出てこなかったのか、というと、そうとも言い切れんな。

3 : 5 は、エジプト人がふだん扱っていた整数の比じゃ。しかも 3-4-5 は自然数の列 1, 2, 3, 4, 5 から最初の2つを取り除いた形、3-5 は奇数の列 1, 3, 5 から最初の1を取り除いた形になっておる。古代の人は、こういう数のあそびをよくしておった。

わし自身は、エジプト人が 3 : 5 を"美しい比"と感じておったのではないかと考えておる。ただしこれは見立てでな、はっきりした実例までは見つかっておらん。

大事なのは順番じゃ。エジプト人が黄金比を知っていて、それを 3 : 5 で代用した、のではない。整数の比を使っておったところに、後の世の人が黄金比を見つけた、ということじゃ。

ピラミッドと黄金比をめぐる話は、連載ピラミッドの謎でさらにくわしく書いています。第5章の『黄金比の謎』を中心に、あわせて読んでみてください。

名前や逸話の"新しさ"を知ると、黄金比という概念そのものの奥深さがかえって際立ちます。

本ではこう語られています

黄金分割の式「短い部分:長い部分=長い部分:全体」では、長い部分が真ん中に2回あらわれます。古代ギリシアでは、このように2つの量の比のあいだに入る量を「比例中項」と呼びました。

ガリレオの挑戦2 速度という名の迷宮から近代科学へこの本を見る
ポゥじい
比 (a : c) = (d : b) において内項の c と d が等しいとき、c = d を a と b の比例中項と呼ぶんじゃ。

黄金比そのものの本ではありませんが、比例中項を半円ひとつで作図する方法から、ガリレオがそれを落下の理論の武器にしていくまでを、順にたどっています。

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黄金分割を導くのに使う「線分の比」と「長方形の面積」の考え方——古代ギリシアが数値を使わずに築いた幾何学の作法を、対話形式でたどります。

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