ルカ・パチョーリ(パチオーリ) とは?
数学と芸術をつないだルネサンスの知性
ルカ・パチョーリ(Luca Pacioli)は、15〜16世紀に活躍したイタリアの数学者・修道士であり、近代会計学の父とも呼ばれる人物です。
彼は数学に関する多くの著作を残しており、中でも1494年に出版された著書『スムマ(Summa de Arithmetica, Geometria, Proportioni et Proportionalità)』は、複式簿記の初の体系的記述を含む点で画期的でした
この書によって、パチョーリは商業や会計の実務にも多大な影響を与え、現代に通じる簿記の基礎を築いたとされています。
黄金比と『神聖な比例』
パチョーリは数学の抽象的美にも深い関心を持ち、特に黄金比(φ)を称賛していました。
彼の代表作のひとつ『神聖な比例(De Divina Proportione)』は、黄金比の数学的・美学的な意義を扱った書物であり、後世の芸術家や科学者たちに大きな影響を与えました。
この本の特徴的な点は、挿絵をレオナルド・ダ・ヴィンチが手がけていることです。
パチョーリとレオナルドは親しい交流があり、レオナルドは本書の中で「プラトン立体(正多面体)」の美しい図版を数多く描きました。
その正確で立体感のある描写は、実際に模型を作って観察したのではないかと推測されるほど精緻なもので、数学と芸術の融合を体現する象徴的な仕事となっています。
パチョーリとルネサンスの知のネットワーク
若き日のパチョーリは、画家であり数学者でもあったピエロ・デラ・フランチェスカの工房で学んでいました。
のちに神学を学び修道士となりますが、彼の学問への情熱は衰えることなく、芸術・数学・哲学を横断するルネサンス的知性の象徴的存在となりました。
パチョーリと黄金比──数学と芸術が出会う場所
ルカ・パチョーリは、黄金比(φ)を「神聖な比」と呼び、その神秘的な性質を深く讃えた人物です。
修道士でもあった彼にとって、数学は神学の一部であり、宇宙の秩序や神の存在を示すものと考えられていました。
たとえば、黄金比が生み出す「小さい数・大きい数・その和」という三つの数の関係は、キリスト教の教義である三位一体を象徴していると解釈されました。
また、黄金比が整数の比で表せない無理数であることについては、「神は人間の尺度では測れない」という神学的メッセージが込められているとしています。
さらに、黄金比には再帰構造(部分が全体に等しい比率を保ったまま無限に繰り返される特徴)がありますが、パチョーリはこれを神の遍在性(どこにでも存在すること)と普遍性の象徴とみなしました。
こうした宗教的・象徴的な解釈とともに、「神聖な比」という名が持つ美と神秘の響きが人々の心をとらえ、黄金比という概念は広く世に知られるようになったのです。
※なお、パチョーリが讃えた黄金比にまつわる謎は、古代エジプトのピラミッドにも隠されていると言われます。マテマティカのWeb連載『ピラミッドの謎』では、数にまつわる古代建築の謎にも迫っています。興味のある方は、ぜひそちらもご覧ください。
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