完全数 とは?ピタゴラス学派が大切にした完全数の性質や定理

完全数とは?ピタゴラス学派が大切にした完全数の性質や定理

完全数 ― 数学史を彩る神秘的な数


「完全数(Perfect Number)」という言葉を聞いたことはありますか?

これは古代ギリシアの数学者たちが特別に重視していた不思議な性質を持つ数で、現代にいたるまで多くの数学者を魅了し続けています。

本記事では、6 や 28 といった小さな完全数から始まり、ユークリッドが証明した「完全数の定理」、そしてメルセンヌ素数との関係、さらには未解決の数学的謎までを分かりやすく紹介していきます。 数の背後にひそむ調和と美しさを、ぜひ一緒にのぞいてみましょう。

完全数 ( Perfect number )とはどんな数?

完全数とは

完全数とは、自分自身を除いた約数の和がその数自身と等しくなる数のことです。

たとえば、6の約数は 1, 2, 3, 6 ですが、自分自身である6を除いた約数の和は

1 + 2 + 3 = 6

となり、元の数と一致します。このため、6は完全数とされます。

同じように、28も

1 + 2 + 4 + 7 + 14 = 28

となるので、完全数です。

現在までに発見されている完全数は非常に少なく、7桁未満の完全数は以下の4つしか知られていません。

6, 28, 496, 8128

完全数

全て偶数?完全数に残された未解決の謎

現在までに発見されている完全数は、すべて偶数です。

古代から現代にかけて、多くの偶数の完全数が見つかってきましたが、奇数の完全数は一つも見つかっていません

そのため、数学者の間では次のような問いが今もなお議論されています:

  • 奇数の完全数は存在するのか?
  • 偶数の完全数は無数に存在するのか?

このように、完全数は2000年以上の歴史を持つにもかかわらず、いまだに解き明かされていない謎が多く残された数なのです。

古代ギリシアのピタゴラス学派から、現代の数学者に至るまで、多くの人々を魅了し続けているテーマでもあります。

現在発見されている完全数はすべて「偶数」です。古代から偶数の完全数はたくさん見つかっていますが、奇数の完全数はまだ発見されていません。「奇数の完全数は存在するのか?」「偶数の完全数は無数に存在するのか?」などは未だ解明されていません。

完全数はいくつある? 8128の次は?

完全数は、古代ギリシアのピタゴラス学派が特別な意味を見出していた数のひとつです。ピタゴラス自身が知っていた完全数は、おそらく 628 のみだったかもしれません。

その後の時代、ヘレニズム期にはさらに 4968128 の2つの完全数が発見されていました。いずれも非常に大きな数ですが、こうした完全数がコンピュータのない時代にどのようにして見つけられたのでしょうか?

実は、次に見つかった5番目の完全数 33,550,336 は、はるか後の1456年にようやく発見されました。この時点ですでに数の桁数は大きく、人力での発見には高度な理論と根気が必要だったことがわかります。

そして、2025年時点で知られている完全数は52個。いずれも偶数であり、その多くはメルセンヌ素数をもとに導かれたものです。

496や8128のような数を、古代の人々がどのように見つけ出したのか。当時の数学的知識や、数との付き合い方を探ることで、その秘密に迫ることができるかもしれません。

完全数とメルセンヌ素数

古代ギリシア数学と完全数

古代ギリシアの人々は、数にさまざまな概念を導入し、分類を行っていました。偶数と奇数、平方数と立方数、素数、そして完全数などです。こうした分類を通じて、数の間に不思議な関係性があることが次第に明らかになっていきました。

また、当時の人々は、2や3、4、5といった一つ一つの数に固有の意味を見出し、神秘的な力が宿ると考えていました。こうした思想は「数神秘主義」と呼ばれ、後の中世ヨーロッパにも大きな影響を及ぼします。

しかし、このような神秘主義的な側面だけでなく、数と数の関係そのものの美しさや法則性は、やがて知的探究の対象となり、後の「数論(number theory)」という数学の一分野を生み出す原動力となっていったのです。

完全数の定理

古代ギリシアの数学者ユークリッドは、その代表的な著作『原論』の中で、完全数に関する次の定理を証明しています。

完全数の定理

 2n+1 − 1 が素数なら、(2n+1 − 1) × 2n は完全数である

ここで「素数」とは、1と自分自身以外に約数を持たない数のことを指します。現代ではこのような定理は数式で簡潔に表されますが、ユークリッドの『原論』ではすべて言葉によって丁寧に記述されており、論理の積み重ねとして証明が構成されていました。

メルセンヌ素数とは?

n-1の形の数は メルセンヌ数と呼ばれます。このうち素数となるものをメルセンヌ素数といいます。

メルセンヌ素数に名を残すマラン・メルセンヌは、17世紀フランスの修道士であり、数学者でもありました。彼は古代ギリシアの「完全数の定理」に深く魅了され、この不思議な性質をもつ数の研究に取り組んだ人物の一人です。

完全数 496 の証明 〔ユークリッドの証明〕

完全数の一つである 496 が、実際に「自分自身を除く約数の和に等しい」ことを確かめてみましょう。

まず、496 は次のように分解できます:

469 = 31 × 16

ここで、31 は素数、16 は 2⁴ です。16 の約数は次のとおり:

1, 2, 4, 8, 16

これらに 31 を掛け合わせると、496 の約数すべてが得られます(ただし 496 自身を除く):

1, 2, 4, 8, 16, 31, 31×2, 31×4, 31×8, 31×16
→ 自身を除くと:1, 2, 4, 8, 16, 31, 62, 124, 248

この合計を計算してみましょう:

1 + 2 + 4 + 8 + 16 + 31 × ( 1 + 2 + 4 + 8)
= ( 2 × 16 – 1 ) + 31 × ( 2 × 8 – 1 )
= 31 + 31 × 15
= 31 × 16
= 496

よって、496 は完全数であることがわかります。

1, 2, 4, 8, 16, 31, 31×2, 31×4, 31×8, 31×16

となります。最後の 31×16を除いた総和を計算しましょう。

※途中で使った公式:

20 + 21 + 22 + … 2n = 2(n+1) – 1

この式については 指数関数のお話で説明しています。

これは等比数列の和の公式の一種で、n = 4 の場合を用いています。

この構造を応用すれば、他の 2ⁿ を使った形でも同様の証明が可能であり、準一般的な証明法とも言えます。

数の歴史

数の概念は時代によって異なる

これまでの説明では、現代の数学の言葉や数式を用いて古代の数学の内容を紹介してきました。しかし、数学史の専門家たちはよく、「古代の数学を現代の概念や道具で語ってはならない」と注意を促します。実のところ、ここまでの解説ではこの“おきて”をかなり破ってしまっています。

たとえば、古代ギリシアには数式の概念はありませんでした。それにもかかわらず、私たちは便利さのあまり数式を使って説明しています。

本来であれば、ユークリッドの『原論』がどのように表現していたのかを紹介すべきところですが、それは簡単ではありません。なぜなら、私たち現代人が持つ「数」のイメージと、古代ギリシア人が考えていた「数」の概念とは、大きく異なっているからです。

『原論』の前半――第I巻から第IV巻にかけては、非常に整理され、美しく構成された理論体系となっています。しかし、第V巻以降になると内容はより複雑さを増し、読解も難しくなっていきます。

今回紹介した「完全数の定理」は、『原論』第IX巻の命題36にあたりますが、この命題にたどり着くためには、数多くの前提となる命題を一つずつ証明していく必要があります。古代の数学者たちは、今のような簡潔な記法を持たず、言葉と論理だけで数の性質に迫っていたのです。

数学は難しい!?

私たちが今使っている「数」という概念にたどり着くまでには、何千年もの時間がかかりました。ですから、「数学は難しい」と感じるのはごく自然なことなのです。実際、近世初期のヨーロッパにおいても、大学で「分数」を学ぶことは、「途中で投げ出したくなるほど難しい学問」だとされていました。

今回のお話では、完全数の性質や、ユークリッドが『原論』の中で証明した完全数の定理についてご紹介しました。

しかし、ふと疑問が浮かびます。

古代ギリシア人は、いったいどのようにしてこのような定理を見つけ出したのでしょうか?

当時のギリシア人は「計算が苦手だった」とも言われています。にもかかわらず、どうして 8128 のような大きな数が完全数であることに気づくことができたのでしょうか?

この謎については、また改めて別の機会にご紹介したいと思います。


ユークリッドの原論とはどのようなものなのでしょうか。動画付きで詳しく解説します▼
Web連載『動画でわかる!ユークリッドの幾何』  1-1.古代ギリシアの数学と現代の数学

関連記事以下の記事で詳しく解説しています++。

1-1.古代ギリシアの数学と現代の数学

私たち人類はいつ頃から「数」を扱うようになったのでしょうか。人類が「数の概念」を獲得するまでの進化と進歩の歴史を辿ります▼
Web連載『数の発明』1.数は人間の発明か

関連記事以下の記事で詳しく解説しています++。

1.数は人間の発明か


スポンサーリンク