嘘つきのパラドックス

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自己言及のパラドックスとは?

パラドックスとは「逆説」「背理」「矛盾」などを意味する言葉です。パラドックスは数学や哲学の分野において、長い間議論されてきました。今回は自己言及のパラドックス として有名な 嘘つきのパラドックス 「クレタ人のパラドックス」のお話をご紹介しましょう。

クレタ島は地中海に浮かぶギリシアの島で、ギリシアの昔話にもよく出てくる有名な島です。ある時、古代ギリシアの七賢人の一人、エピメニデスが「クレタ人は嘘つきだ」と言いました。この言葉だけを取り出して見た場合、何も問題はありません。しかしここでポイントとなるのは、エピメニデス自身がクレタ人だということです。

この発言内容を以下の二つの場合に分けて見てみましょう。

◆クレタ人は嘘つきだと仮定する
「クレタ人は嘘つきだ」と仮定すると、エピメニデスの発言内容は嘘ということになります。エピメニデスは「クレタ人は嘘つきだ」と言っているので、その発言は嘘、つまり『クレタ人は嘘つきではない』ということになります。これははじめの仮定に矛盾します。

◆クレタ人は嘘つきではないと仮定する
逆に「クレタ人は嘘つきではない」と仮定してみましょう。エピメニデスの発言内容は正しいということになります。エピメニデスは「クレタ人は嘘つきだ」と言っているので、この話は本当のこととなり『クレタ人は嘘つきである』ということになります。これもまたはじめの仮定に矛盾してしいます。
このように、どちらのケースも初めの仮定に矛盾してしまうのです。

自己言及のパラドックスは「一般的な言明を自分に当てはめると矛盾する」ことを言います。自分自身を含めて言及したために、肯定と否定の無限ループが起こり、真偽の判定ができなくなってしまうのです。自己言及はよく万能性の欠点を示すために用いられます。

コンピュータにも解けない問題がある?

皆さんは「コンピュータには解けない問題がある」と聞いてもあまり驚かないかもしれません。しかし、“未来のどんなコンピュータ”にでも解けない問題がある、としたらどうでしょうか。人工知能の技術がさらに進歩し、今よりもっとかしこくなった未来のコンピュータは、どんな問題でも解けるようになっているかもしれない、と思いませんか?

皆さんの家にかしこい人工知能(コンピュータ)があったとして、その人工知能を“コンプ君”と呼ぶことにしましょう。どんな質問をしたらコンプ君は困るでしょうか。先ほどの問題「クレタ人は嘘つきだ」について聞いてみたらどうでしょうか。

コンプ君、次の文章は「正しい」か「正しくない」か、yes か noで答えて
『「クレタ人は嘘つきだ」とクレタ人は言った』

コンプ君はこの質問に答えられるでしょうか。現在のコンピュータはすごい能力を持っていますが、驚くべきことにコンピュータにも解けない問題が存在するのです。実はこの議論は近代の数学史における重要で有名な定理「ゲーデルの不完全性定理」と集合論における“ラッセルのパラドックス”などで使われる手法の簡略版となっているのです。

上で述べた「クレタ人のパラドックス」は、定義が不完全であり、「コンピュータが解けない問題」にはなっていません。以下では“質問”とは「真か偽かが定まっている文章」とします。P を現在の人工知能(あるいはあるプログラミング言語で書かれたプログラム)とします。また、人工知能は与えられた入力に対し yes か no かだけを答えるものとします(これは議論を単純化するためのもので、人工知能の能力を制限するものではありません)。「P が正常である」という概念を次で定義します。

P はどんな質問にも正しく答えるとき正常であるという。

言い換えるとP が正常でない(狂っている)とはある質問に対し、間違った答えをするか、あるいはとぼけて何も答えないことです。コンピュータが解けない質問とは、次の質問です。

人工知能 P は正常か?

この質問に答えることができる人工知能(コンピュータ)Q は存在しません。もちろん、明らかに狂っている P に対しては no と答えることができますし、明らかかに正常な P に対しては yes と答えることはできます。しかし、どんな人工知能 Q を構成したとしても、正常かどうかを判定できないような入力 P が存在してしまうのです。

ここで P は現在の人工知能(現在の一つのプログラミング言語で書かれたプログラム)としました。これは「何が入力か」をはっきりさせるためです。しかし、この問題自体は、未来永劫どんな人工知能が現れようが解けないと考えられています。これは証明されるような事柄ではありませんが、現代の数学者のほとんどはこのように考えています。

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