原論
用語
Euclid's Elements(Stoikheia)

原論

古代ギリシアの数学者ユークリッドが、ヘレニズム期のアレクサンドリアで著した数学書。定義・公準・共通概念から命題を積み重ね、幾何学から数論までを体系化した全13巻。
ひとことで言うと

古代ギリシアのユークリッドが著した数学書。定義や前提から証明を積み上げる構成によって、その後の数学の手本となった書物。

原論(ストイケイア)とは

この用語の要点
  • 古代ギリシアの数学者ユークリッドの著作『原論』の原題
    • ギリシア語で「基本」「基本的な構成要素」を意味する
    • プラトンは、正多面体の面を作る2種類の三角形をストイケイアと呼んだ

『ストイケイア』は、紀元前300年ごろ、ヘレニズム期のギリシアで活躍した数学者ユークリッド(エウクレイデス)によって書かれた代表的な数学書で、ギリシア語の題名を、英語では"Elements"、日本語では一般に『原論』と訳します。

「ストイケイア」はギリシア語で「基本」や「構成要素」を意味し、数学の土台となる概念を体系的にまとめた書物です。全13巻からなる大著で、主に幾何学を中心としながら、数論、比例論、平面・立体図形の性質にまで及ぶ幅広い内容を含みます。

ユークリッドユークリッド「ユークリッド幾何学」でおなじみの幾何学の父詳しく見る →はこの著作で、当時知られていた数学的知識を厳密に整理し、「定義」「公準」「共通概念」から出発して、一つひとつの命題を論理的に積み重ねていく体系を築き上げました。共通概念は、のちに「公理」と呼ばれるようになったものです。この明快な構成と論証の手法は、後世の数学だけでなく論理学や哲学の発展にも大きな影響を与え、中世のイスラーム世界やヨーロッパに受け継がれ、近世には数多くの版が刊行されました。とくに19世紀のイギリスでは、学校で幾何学を学ぶための中心的な教材として使われていました。

『原論』が主眼としているのは、それぞれの命題が示す"事実"そのものではなく、なぜその命題が正しいといえるのかを示す"証明"です。「ユークリッドの原論以上に世界中で読まれた本は聖書くらいのものだ」と言われるほど、近世に至るまで広く読まれ、ヨーロッパの中世から近世にかけてはほとんどの数学者が『原論』を読み、大学の教科書としても使われていました。

全13巻の構成

13巻は、扱う主題によって次のように分かれます。

  • 第1〜4巻 平面幾何(第1巻:三角形・平行線・面積などの基礎/第2巻:面積を使った計算/第3巻:円の性質/第4巻:円に内接・外接する多角形)
  • 第5巻 比例論(大きさの比を扱う一般理論)
  • 第6巻 比例論の応用(相似な図形、面積の比)
  • 第7〜9巻 数論(素数素数1より大きい自然数のうち、1と自分自身以外に約数を持たない数。詳しく見る →、最大公約数、数の比、完全数など)
  • 第10巻 非共測量(共通の単位では測りきれない量の分類)
  • 第11〜13巻 立体幾何(空間図形、体積、正多面体)

後世、13巻が均等に読まれたわけではありません。中世以降のヨーロッパの大学で教科書として使われたのは、おもに第1巻でした。第2巻から先は難しく、なかなか読みこなせなかったようです。『原論』は学生向けの入門書だと思われがちですが、いまの初学者向けの教科書とは、性格の異なる書物です。

平面幾何学の体系化

13巻のうちでもよく知られているのが、いまユークリッド幾何学と呼ばれる平面幾何の理論です。

はじめの数巻では、点、直線、角度、三角形、平行四辺形、円といった基本的な図形の性質が論じられます。ここで扱われるのは、目新しい事実ではありません。当時すでに知られていたことばかりです。

『原論』が新しかったのは、それらを限られた定義と公準だけを出発点にして、順序立てて導いてみせたところにあります。前提をはっきり決めて、そこから筋道を立てて積み上げていく。数学の進め方そのものを、手本として見せた書物でした。

その出発点に置かれたのが、次の5つの公準です。証明なしに認めてもらう約束ごとで、はじめの3つは、作図で許される操作を決めたものです(※『公理と公準』参照)公理と公準証明せず、議論の出発点として採用する前提。『原論』では、幾何に固有のものを公準、量の扱いなど一般的なものを共通概念と呼び分けた。。

  • 公準1:2つの点を結ぶ線分を引くことができる
  • 公準2:線分は、どちら側にもいくらでも延長できる
  • 公準3:どの点を中心にしても、どんな半径の円でも描くことができる
  • 公準4:直角はすべて互いに等しい
  • 公準5:平行線にかかわる約束ごと(平行線公準。くわしくは「さらに深掘り」で)

このほかに、「同じものに等しいものは、互いに等しい」「全体は部分より大きい」といった、量一般に通じる「共通概念」(のちに公理と呼ばれるもの)が置かれています。

この平面幾何の体系は2000年ものあいだ揺るがず、19世紀になって「もし前提が違っていたら」という問いから、別の幾何学が生まれることになります。

ユークリッドとはどんな人物か

ユークリッド(エウクレイデス)は、紀元前300年ごろにエジプトのアレクサンドリアで活躍したとされる数学者です。ユークリッドは英語読みで、ギリシア語の読み方がエウクレイデス。どちらも同じ人物を指します。アレクサンドリアは、ヘレニズム期にプトレマイオス朝エジプトの都として栄えた学問の中心地で、多くの学者が集まり研究が盛んに行われていました。

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さらに深掘り

「ストイケイア」は、プラトンの基本三角形にも使われた

「ストイケイア」という言葉は、ユークリッドの著書の題名としてだけでなく、プラトンプラトン古代ギリシアの哲学者詳しく見る →が使った「基本三角形」という意味でも登場します。

プラトンは著書『ティマイオスティマイオスプラトンの対話篇。宇宙を構成する火・空気・水・土の4元素を、5つある正多面体(プラトンの立体)のうち4つに割り当てたことで知られる。』の中で、火・空気・水・土という4つの元素に、正多面体正多面体(プラトン立体)すべての面が合同な正多角形で、各頂点に集まる面の数もすべて等しい凸多面体。この条件を満たす立体は5種類しか存在しない。のうち4つを割り当てました。火は正四面体、空気は正八面体、水は正二十面体、土は正六面体です。

そしてこの4つの立体の面は、さらに2種類の直角三角形に分解できると考えました。正三角形の半分と、直角二等辺三角形です。この2つの三角形を「ストイケイア(基本三角形)」と呼びました。現在私たちが文房具店で買う三角定規は、まさにこの2つの形をしています。

カズオ
三角定規って、そんな昔から同じ形だったんですか。
ポゥじい
形そのものは、な。もっともプラトンにとっては、製図の道具ではなく世界を組み立てる部品じゃった。どの立体の面も、この2つに行きつく。ここから先はもう分けぬ、と決めた出発点。それが「ストイケイア」なのじゃよ。

プラトンは、神がこの2種類の三角形を、4つの元素の「始原(アルケー)」として与えた、と書いています。どの立体も、元をたどればこの三角形の組み合わせでできている、というわけです。

同じ「ストイケイア」という言葉が、ユークリッドにとっては「数学の基本命題の体系」を、プラトンにとっては「物体を組み立てる幾何学的な構成要素」を指していました。この共通点は、古代ギリシア人が「基本的な構成要素を積み上げて世界を説明する」という発想を、数学と自然哲学の両方で共有していたことをうかがわせます。

「平行線の公理」が生んだ非ユークリッド幾何

『原論』第I巻は、23の定義のあと、5つの公準と、5つの共通概念(のちに公理と呼ばれるもの。版によっては9つ挙げるものもあります)から始まります。

そのうち5番目の公準5は、もとの言い回しではこうなっています。

「ある直線が2本の直線と交わるとき、同じ側の内角の和が2直角(180度)より小さいならば、その2本の直線は、限りなくのばすと、その側で交わる」

いまの言葉で言いかえると、「直線の外にある1点を通って、その直線と平行な直線は、ちょうど1本だけ引ける」ということです。平行線について述べているので「平行線公準」(平行線の公理とも)と呼ばれます。

カズオ
ほかの公準とくらべて、ずいぶん長いですね。
ポゥじい
そこじゃよ。ほかの4つは「2つの点を通る直線が引ける」といった、読めばすぐ納得できるものばかりでな。これだけが、条件をいちいち並べねば言えん。だから「こんなものは、ほかの前提から導けるはずだ」と、みなが思うたのじゃ。

この公準5は、書かれてから2000年ものあいだ数学者たちを悩ませ続けました。ほかの前提から導こうとする試みが繰り返されましたが、どれも成功しませんでした。

19世紀になってようやく、「公準5が成り立たない」と仮定しても矛盾が生じないことが示されます。こうして生まれたのが非ユークリッド幾何非ユークリッド幾何ユークリッドの『原論』にある「平行線の公理」(公準5)を否定することで成り立つ、別の体系の幾何学。です。

ユークリッド幾何だけが正しい理論ではなかった。この発見は、数学の世界に大きな衝撃を与えました。数学は1つではなく、前提の置き方しだいでいくつもありうるのです。いまでは非ユークリッド幾何は、アインシュタインの相対性理論になくてはならないものになっています。

本ではこう語られています
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ポゥじい
そして彼が書き残した名著『原論』は、聖書の次に読まれた本とすら言われておる。数学の基本的な考え方は、まさにこの『原論』を手本に育ってきたのじゃ。
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古代ギリシアの数1 数学はこうして生まれた

ピタゴラスからユークリッドまで、ギリシア数学がどう形づくられたかをたどる一冊。『原論』の素数の無限性・完全数・正多面体の証明を、対話で読み解いています。

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