無理数
用語
Irrational Number

無理数

分子・分母がともに整数の分数a/bの形で表せない実数。円周率π、√2、自然対数の底eなどが代表例で、小数にすると無限に非循環に続く。
ひとことで言うと

有理数(整数の比で表せる数)ではない実数を指す、数の分類の一つ。

無理数とは

この用語の要点
  • 整数の比(分数)では表せない実数
    • 小数にすると無限に続き、同じ並びが繰り返されない
    • 円周率π、√2、自然対数の底 e が代表例

無理数とは、整数の比(分数)として表すことができない実数のことです。有理数との違いから見ていきます。

分数で表せる数「有理数」

有理数とは、分子aと分母bがともに整数で、b≠0の形(a/b)で表せる数のことです。

  • 整数(1、0、−3 など)
  • 有限小数(0.5=1/2、0.125=1/8 など)
  • 循環小数(0.333…=1/3、0.142857142857…=1/7 など)

循環小数とは、小数部分に一定の繰り返しがある無限小数のことで、必ず分数に直せます。

分数で表せない数「無理数」

これに対し無理数は、このような分数では表せない数です。

  • 小数として表すと、無限に続いて終わらない
  • しかも、同じ並びが繰り返されない(非循環)

円周率円周率円周の長さを直径で割った値。どんな大きさの円でも同じ値になり、π(パイ)=3.14159265358979…と、小数が規則的に繰り返すことなくどこまでも続く無理数。詳しく見る →π(3.14159…)、√2(1.41421…)、自然対数の底e(2.71828…)などが代表的な無理数です。どんなに桁数を増やしても、有限の整数の比として正確に表すことはできません。

分数を小数にすると、必ず「割り切れる」か「繰り返す」

小数に直したときの数の分け方。有理数は整数(2=2/1)、有限小数(0.125=1/8)、循環小数(0.3333…=1/3、0.123123…=123/999)に分かれる。無理数はπ=3.141592…のように規則性がない。循環小数と無理数はどちらも無限小数。

分数を10進小数に直すと、有限小数になるか、途中から同じ数字の並びを繰り返す循環小数になるか、そのどちらかにしかなりません。3つめの道はありません。

理由は、筆算の余りを追いかけると分かります。整数 a を整数 b で割るとき、余りは0から b−1 までの b 通りしかありません。

  • 余りが0になれば、そこで割り切れて有限小数
  • 余りが0にならなければ、割り続けるうちに必ず以前と同じ余りが現れる

同じ余りが現れれば、そこから先はまったく同じ計算になります。したがって、同じ数字の並びが繰り返される循環小数になるのです。

たとえば、1/7 は

0.142857 142857…

と6桁の数字を繰り返し、1/17 は16桁の数字を繰り返します。

逆に、途中から同じ数字の並びを繰り返す小数は、必ず分数に直せます。

まとめると、10進表示では次のようになります。

有理数 = 有限小数、または途中から循環する小数
無理数 = 循環しない無限小数

ただし、小数展開の有限個の桁を眺めるだけでは、その数が無理数かどうかは判定できません。有理数であっても、繰り返しが始まるまでの桁数には、すべての有理数に共通する上限がないからです。

100桁まで繰り返しが見つからなくても、101桁目から循環が始まるかもしれません。ある数が無理数であることを数学的に確定するには、桁を眺めるだけではなく、証明が必要です。

√2 が無理数であることの証明

√2 が無理数であることは、背理法で示せます。「もし分数で表せたら」と仮定して、そこから矛盾を導く方法です。

下の図で、1手ずつたどれます。最後に仮定がくつがえるところまで見てください。

筋道はこうです。√2 = a/b と、それ以上約分できない形で書けたとします。両辺を2乗すると a² = 2b² となり、a は偶数だと分かります。そこで a = 2c と置いて代入すると b² = 2c² となり、b も偶数です。ところが a も b も偶数なら、まだ2で約分できます。これは「約分できない形で書いた」という最初の置き方と矛盾します。だから √2 は分数では表せません。

数はどのようにして生まれたのか

古代において「数」として認識されていたのは、1、2、3…といった自然数だけでした。羊の数を数えたり、道具の個数を把握したりと、数はごく実用的な目的で使われていたのです。

人の活動が複雑になるにつれて、数の考え方は少しずつ広がっていきます。0や負の数、小数、分数、さらには√2やπのような無理数を経て、実数実数整数どうしの比で表せる有理数と、πや√2のように比では表せない無理数を合わせた数の全体。数直線上のすべての点と、ひとつずつ対応する。という広い枠にたどり着きました。

いまでは「無理数は有理数でない実数である」と簡単に定義できます。けれどもそのためには、「実数とは何か」がはっきりしていなければなりません。その厳密な定義が与えられたのは、19世紀になってからのことです。

さらに深掘り

「無理数のパニック」は史実か

ある日、ピタゴラスピタゴラス宇宙の原理を数と結びつけた古代ギリシアの哲人詳しく見る →あるいはその弟子たちが、正方形の対角線の長さは有理数では表せないと気づいた、と言われています。一辺の長さを1とすると、対角線の長さは√2です。

「万物は数(自然数の比)である」(※『万物は数である』参照)万物は数であるこの世界のあらゆる現象は数、とくに整数の比によって成り立っているとする、ピタゴラス学派の中心教義。音楽の調和や天球の運行に見出された整数比から着想されたとされる。を掲げていた教団にとって、これは深刻でした。もっとも基本的な図形である正方形に、教義に反するものが潜んでいたからです。教団は閉鎖的な結社で、この発見は外に漏らしてはならない秘密とされました。

やがてヒッパソスという教団の一員がこれを外に漏らし、掟を破ったために船上から海へ突き落とされた。そしてピタゴラスは「量」という新しい概念を立て、"数"と"量"を分けることで教義と現実を両立させた。この「無理数のパニック」の物語は、そう締めくくられます。

ポゥじい博士の見立て

このお話は、どこまでが事実かは定かではないのじゃ。逸話の最も古い記録は3世紀ごろのローマ時代、イアンブリクスという人物の著作に現れる。ピタゴラスの時代からは何百年も後の話でな、しかもこの人物の著作は版によって内容が食い違うところがあり、そのまま史実として受け取るのは難しいと言われておる。

また物語の結末では「教義を守るため数を量から切り離した」とされるが、実際の歴史はむしろ逆だったように見えるのじゃ。古典期のギリシアでは"数"と"量"はもともと別物として扱われておって、ヘレニズム期になってはじめて"量"も"数"の仲間として認められるようになったんじゃ。

『原論原論(ストイケイア)古代ギリシアの数学者ユークリッドが著した数学書。定義・公準・共通概念から出発して命題を積み重ねる構成で、幾何学から数論までを体系化した全13巻。詳しく見る →』の根底にある「数と量は別物」という古い理論と、その後入ってきた「量も数である」という新しい実践理論との間の食い違い、それにアロゴスという術語の持つ「口にしてはいけない」というニュアンスから、後世になって「無理数のパニック」という物語が作られたのではないかとわしは考えておる。

カズオ
無理数のパニックのお話、とても面白かったんですが、本当にあったかはわからないんですね?
ポゥじい
史実かどうかは気になるところじゃが、わしがもっと大切だと思っておるのはそこではない。むしろ、「数」という言葉が何を指すのか、時代とともにどう広がっていったのか、そちらの方じゃな。
スウカ
広がっていった、というと?
ポゥじい
古代ギリシア人にとって「数」はもともと自然数だけを指し、対角線の長さのようなものは「量」として別扱いしておった。それが時代を経て、無理数も含めて「数」と呼ぶようになっていったのじゃ。実は、無理数をすぐには正式な「数」と認めなかったのは、ギリシア人だけではないのじゃよ。アラビアの数学者たちも、√2のような数を「不尽数(書き尽くせない数)」「不言数(言い表せない数)」と呼び、小数点以下どこまでも計算して存在は認めながらも、正式な「数」としては長らく扱わなかった。時代も場所も離れたところで、同じことが繰り返し起きておるんじゃな。
カズオ
数として認めるかどうかって、そんなに難しい話なんですね。
ポゥじい
そうじゃ。「無理数のパニック」という一つの逸話の真偽よりも、数という概念そのものが、何百年、何千年もかけて少しずつ形を変えてきたこと。わしにとっては、そちらの方がずっと興味深いんじゃよ。くわしくは『実数とは何か?』でも紹介しておる。
本ではこう語られています

この本のタイトルは「無理数は本当に発見されていたのか?」。その問いが、いちばんはっきり出てくるところを読んでみましょう。

古代ギリシアの数2 無理数は本当に発見されていたのか?この本を見る
ポゥじい
『正方形において、一辺の長さと対角線の長さは共測でない』。これがギリシア数学における 無理数の発見 に相当する命題じゃな。ここで強調しておきたいことは、『古代ギリシア人は無理数を発見した』という言説は古くからあるが、はたしてこれが事実かどうかじゃ。

この問いの答えは、本の後半でじっくり扱われています。

本ではこう語られています

「無理数を正式な数として認めるかどうか」に手こずったのは、実はギリシアだけではありません。同じ問いに、アラビアの数学者たちも向き合っていました。

実数とは何か? 有限と無限をつなぐ数の世界この本を見る
ポゥじい
うむ、よいところに気づいたのう。アラビアの数学者たちは、無理数のことを 不尽数 あるいは、 不言数 と呼んでおった。「書き尽くせない数」「言い表せない数」という意味じゃな。彼らは √2 や √3 を、小数点以下何桁までも計算しておる。つまり、そういう数が「ある」ことは認めていたわけじゃ。ただし、彼らが方程式の「答え」として求めていたのは、あくまで近似値としての有理数、つまり有限小数だったのじゃ。
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古代ギリシアの数2 無理数は本当に発見されていたのか?
電子書籍

古代ギリシアの数2 無理数は本当に発見されていたのか?

「無理数は本当に発見されていたのか」を副題に掲げた一冊。無理数のパニック、量の共測と非共測、ピタゴラスの定理と古代ギリシアの思考などを扱っています。

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