第2巻/P.2あたりに記載

円ならすぐに解ける。
楕円になると、なぜ手強いのか。

惑星が太陽のまわりを回っている。そう聞いて思い浮かべるのは、たいていまん丸の円でしょう。 教科書の図も、たいていは円で描かれています。

円ならすぐに解ける。楕円になると、なぜ手強いのか。

ところが自然界に、完全な真円はめったにありません。 彗星も、月も、そして地球も、少しひしゃげた楕円を描いて回っています。

円で考えるぶんには、計算はうまくいきます。実際『天才ニュートンの頭の中1』では、 軌道が円だったらどんな力が働いているはずか、というところまで進みました。 けれどそれは「もし円だったら」という仮定の話です。 本物の軌道は楕円なのですから、それを確かめないことには、宇宙の法則を見つけたとは言えません。

カズオ
円がちょっと潰れただけですよね。 少し手直しすれば済むんじゃないですか。
ポゥじい
それがのう、当時の数学者が何人も挫折しておってな。 わしはこれを「魔の山」と呼んでおる。 なぜそこまで難しくなるのか、2つの軌道を並べて見比べてみよう。

見比べてみる

円軌道
中心からの距離一定
引かれる力一定
計算がシンプル
楕円軌道
太陽からの距離変化
引かれる力変化
計算が複雑
×1.0

左は棒の長さが変わりません。右は太陽との距離が変わるので、「引かれる力」も変わります。

同じままのものが、見あたらない

円軌道には、中心がひとつしかありません。どこにいても中心からの距離は同じです。 距離が同じなら、引かれる力の強さも同じ。 ずっと変わらない値が2つある。だから計算がすっきり進みます。

楕円にも中心はあります。ただし太陽は、そこにはいません。 楕円には焦点が2つあり、太陽が座っているのはそのうちの片方です。 ですから惑星は、近づいたり遠ざかったりを繰り返すことになります。

距離が変われば、引かれる力の強さも変わります。 近づけば速くなり、遠ざかれば遅くなる。速さも刻々と変わります。 円のときのように「ずっと同じ」と言える手がかりが、見あたりません。 じつは、この動きの中にも変わらないものが一つだけ隠れているのですが、 それは次の記事でお話しします。

スウカ
右の棒が、ずっと伸び縮みしています。 これでは、どこを基準に考えればいいのか分かりません。

そこが、この本で「魔の山」と呼んでいる理由です。 全部が同時に動いているものを、どこから手をつけて解いていくのか。 しかもニュートンが『プリンキピア』の証明に選んだのは、代数式ではなく図形の言葉でした。

山を登るための、道標があった

とはいえ、まったくの手ぶらだったわけではありません。 この山には、先に立てられていた道標がありました。 ヨハネス・ケプラーが観測から見つけ出した、3つの法則です。

膨大な観測データの山から、惑星の動きに潜む規則を掘り当てる。 これは並大抵のことではありません。ケプラーは、 ティコ・ブラーエが残した膨大で精密な観測データを分析し、 惑星が楕円を描くことも、その動き方に一定の規則があることも突き止めました。

ケプラーが「していないこと」もあります ケプラーが見つけたのは、観測から浮かび上がった結果でした。 「なぜそうなるのか」という数学的な証明までは与えていません。 ニュートンはこの法則を動かぬ事実として受け取ったうえで、 ならば、どんな力が働いていればこの動きになるのかという向きから問い直しました。 見つけることと、証明すること。書籍では、この2つが別の仕事として描かれています。
ポゥじい
さあ、道具は揃った。ここからが『プリンキピア』の核心じゃ。 複雑きわまりない楕円の動きが、たったひとつの式に収まっていく。 その道のりを、図形の言葉で登っていくぞ。

この記事でたどったこと

円と楕円は、見た目こそ近いのに、扱いやすさがまるで違いました。 円なら中心からの距離がどこでも同じで、引かれる力の強さも同じ。 ずっと変わらない値があるので、計算の足場になります。 楕円にも中心はありますが、太陽がいるのは中心ではなく2つある焦点の片方。 だから惑星は近づいたり遠ざかったりを繰り返し、距離も力も速さも変わり続けます。 図で右の棒が伸び縮みし続けていたのが、そのことでした。

「ずっと同じ」と言える手がかりが見あたらない。 当時の数学者が次々に足を止めたのは、この一点です。 観測から規則を掘り当てたケプラーも、なぜそうなるのかまでは示していません。 見つけることと、証明すること。 その隔たりに、代数式ではなく図形の言葉で挑んだのが『プリンキピア』でした。

ここで扱ったのは、ニュートンが『プリンキピア』で組み立てた道すじの一場面です。 彼が何に悩み、どこで間違え、どうやって答えにたどり着いたのか。 その道のりは電子書籍『天才ニュートンの頭の中2』で詳しく書いています。

GET THE BOOK
続きは、本編で
天才ニュートンの頭の中2 消えゆく比、そして世界の法則へ 電子書籍 天才ニュートンの頭の中2 消えゆく比、そして世界の法則へ 書籍の詳細を見る ↗