円ならすぐに解ける。
楕円になると、なぜ手強いのか。
惑星が太陽のまわりを回っている。そう聞いて思い浮かべるのは、たいていまん丸の円でしょう。 教科書の図も、たいていは円で描かれています。
ところが自然界に、完全な真円はめったにありません。 彗星も、月も、そして地球も、少しひしゃげた楕円を描いて回っています。
円で考えるぶんには、計算はうまくいきます。実際『天才ニュートンの頭の中1』では、 軌道が円だったらどんな力が働いているはずか、というところまで進みました。 けれどそれは「もし円だったら」という仮定の話です。 本物の軌道は楕円なのですから、それを確かめないことには、宇宙の法則を見つけたとは言えません。
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左は棒の長さが変わりません。右は太陽との距離が変わるので、「引かれる力」も変わります。
同じままのものが、見あたらない
円軌道には、中心がひとつしかありません。どこにいても中心からの距離は同じです。 距離が同じなら、引かれる力の強さも同じ。 ずっと変わらない値が2つある。だから計算がすっきり進みます。
楕円にも中心はあります。ただし太陽は、そこにはいません。 楕円には焦点が2つあり、太陽が座っているのはそのうちの片方です。 ですから惑星は、近づいたり遠ざかったりを繰り返すことになります。
距離が変われば、引かれる力の強さも変わります。 近づけば速くなり、遠ざかれば遅くなる。速さも刻々と変わります。 円のときのように「ずっと同じ」と言える手がかりが、見あたりません。 じつは、この動きの中にも変わらないものが一つだけ隠れているのですが、 それは次の記事でお話しします。
そこが、この本で「魔の山」と呼んでいる理由です。 全部が同時に動いているものを、どこから手をつけて解いていくのか。 しかもニュートンが『プリンキピア』の証明に選んだのは、代数式ではなく図形の言葉でした。
山を登るための、道標があった
とはいえ、まったくの手ぶらだったわけではありません。 この山には、先に立てられていた道標がありました。 ヨハネス・ケプラーが観測から見つけ出した、3つの法則です。
膨大な観測データの山から、惑星の動きに潜む規則を掘り当てる。 これは並大抵のことではありません。ケプラーは、 ティコ・ブラーエが残した膨大で精密な観測データを分析し、 惑星が楕円を描くことも、その動き方に一定の規則があることも突き止めました。
この記事でたどったこと
円と楕円は、見た目こそ近いのに、扱いやすさがまるで違いました。 円なら中心からの距離がどこでも同じで、引かれる力の強さも同じ。 ずっと変わらない値があるので、計算の足場になります。 楕円にも中心はありますが、太陽がいるのは中心ではなく2つある焦点の片方。 だから惑星は近づいたり遠ざかったりを繰り返し、距離も力も速さも変わり続けます。 図で右の棒が伸び縮みし続けていたのが、そのことでした。
「ずっと同じ」と言える手がかりが見あたらない。 当時の数学者が次々に足を止めたのは、この一点です。 観測から規則を掘り当てたケプラーも、なぜそうなるのかまでは示していません。 見つけることと、証明すること。 その隔たりに、代数式ではなく図形の言葉で挑んだのが『プリンキピア』でした。