第1巻/P.28あたりに記載

遠ざかるほど、光は暗くなる。
引力も、同じように薄まるのか?

街灯から離れるほど、足もとは暗くなります。ろうそくを遠ざければ、手もとは見えにくくなる。 誰でも知っていることです。下の絵のように、光は遠ざかるほど、より広い面へ広がっていきます。

遠ざかるほど、光は暗くなる。引力も、同じように薄まるのか?

ろうそくが放つ光の量は、見る人が遠ざかったからといって減るわけではありません。 変わるのは、その光がどれだけ広い範囲に散らばるかです。 遠ざかるほど光は広い面に行きわたり、1か所あたりの取り分が減っていきます。

引力もまた、距離の2乗に反比例して弱まるのではないか。 17世紀末、この考えをニュートンに書き送った人物の一人が、ロバート・フックです。 ニュートンと同じ時代を生き、たびたび衝突した相手でもありました。

カズオ
光が薄まるのは分かります。でも、引力って光とは別のものですよね。 同じように考えていいんですか?
ポゥじい
よい問いじゃ。光と引力が同じものだ、と言っておるのではない。 借りておるのは「中心から四方へ、同じ量が広がっていく」という形だけでな。 フックが書き残したのも光の話ではなく、中心から四方へ出ていった引力が、 その距離を半径とする球の表面いっぱいに広がる、という筋道じゃ。 形が似ておるからといって、それで確かめたことにはならん。そこは、あとで効いてくるぞ。

広がる面に、同じ量が薄まる

フックが書き残した見当は、次のようなものでした。中心に引力のもとがあるとする。 そこから出ていく引力の量は、どこまで届いても全体としては変わらない。 けれど、引力の影響は中心から四方へ広がるので、ある距離まで来たときには、 その距離を半径とする球の表面いっぱいに広がっています。 球の表面積は半径の2乗に比例して広がりますから、 同じ量が2乗倍に広がった面に薄められる。だから力の強さも2乗に反比例して弱まるはずだ、というわけです。

言葉だけだと追いかけにくいので、中心からの距離を動かしてみてください。 黄色い線は「引力の広がり方」を表しています。距離を変えても本数は変わりません。 変わるのは、線と線のあいだの間隔と、受け取る面の濃さです。

距離を変えてみる

距離を2倍にすると面積は4倍、3倍にすると9倍。 右の棒グラフは、1か所あたりの強さを表しています。

スウカ
距離を2倍にしたら、半分じゃなくて4分の1になるんですね。 減り方が思ったより急です。

そこがこの話の要です。面積が2乗で広がるので、薄まり方も2乗で効いてきます。 距離が3倍なら9分の1、4倍なら16分の1。離れるほど、力は急激に落ちていきます。

距離を2倍、3倍……にすると 表面積は 2乗で広がり、1か所あたりの強さは その逆数まで薄まる

これが「距離の2乗で弱まる」という言い方の中身です。 書籍では、フックがこの見当を講義録に書き残していたことを紹介しています。

ただし、思いついていたのはフックだけではありませんでした。 惑星の動きを引力で説明できるのではないか、と考えていた学者は当時ほかにもいます。 たとえばケプラーは「引力」ではなく「磁力」という言い方をしていますが、 思い描いていたものは近かったようです。 書籍では、ニュートン自身が『プリンキピア』のなかで先人の名前を挙げて、 その成果に触れていることも紹介しています。

ただし、これは証明ではありません

カズオ
じゃあ、惑星を引く力も距離の2乗で弱まる。 もう答えが出たようなものじゃないですか? あとは当てはめるだけに見えますけど。
ポゥじい
ところが、そうはいかんのじゃ。いま確かめたのは 「引力が距離の2乗で弱まるとすれば、惑星の動きもうまく説明がつきそうだ」という見当であって、 「実際にそうなっている」ことを示したわけではないからのう。

たとえば、いまの図では引力が四方八方へ均等に出ていくと決めてかかりました。 光になぞらえて考えただけで、引力が本当にそう振る舞う保証はどこにもありません。 それに、この考え方だけでは惑星がなぜその軌道を通るのかまでは何も言えません。

実際、当時の学者たちは行き詰まっていました。 四季の長さが均等でないことは古くから知られていて、 惑星の軌道がきれいな円ではないらしいことは、うすうす分かっていたのです。 ところが、円ではない軌道を扱おうとしたとたん、話は一気に難しくなりました。

見当はついている。けれど、誰もが確かめられる形で示すことはできない。 その状態を破ったのがニュートンでした。 書籍では、ぼんやりとした予想を数学の言葉で記述しなおして証明してみせたことこそが 『プリンキピア』の起こした変化だ、という見方をとっています。

ポゥじい
そしてニュートンは、その証明のために、当時すでに広まりつつあった代数ではなく、 2000年前の幾何学を選んだ。なぜ、わざわざその回り道を通ったと思う?

この記事でたどったこと

遠ざかると弱まるのは、出ていく量が減るからではありませんでした。 同じ量が、その距離を半径とする球の表面いっぱいに広がるから薄まる。 面積は距離の2乗で増えるので、1か所あたりの取り分は2乗で減る。 これが「距離の2乗で弱まる」という言い方の中身です。 距離を2倍にすると半分ではなく4分の1、3倍なら9分の1。図で見たとおりです。

もうひとつ、見当がつくことと、証明することは別だということ。 フックが書き残した筋道は、いかにもうまくいきそうに見えます。 けれど「そう考えるとつじつまが合う」と「実際の惑星の動きまで説明できる」のあいだには、まだ隔たりがあります。 その見当を、誰もが検証できる数学の言葉へ変えていったのが『プリンキピア』でした。

ここで扱ったのは、ニュートンが『プリンキピア』で組み立てた道すじの一場面です。 彼が何に悩み、どこで間違え、どうやって答えにたどり着いたのか。 その道のりは電子書籍『天才ニュートンの頭の中1』で詳しく書いています。

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