第1巻/P.48あたりに記載

木から落ちるサルを狙って撃つ。
ねらう先は、どこ?

木の枝にサルがぶら下がっています。少し離れたところに鉄砲。 銃口はサルにまっすぐ向いています。ところがこのサル、賢いことに、 銃口が火を噴いたその瞬間に手を放すのです。 今回は、この「物が落ちる動き」に注目してみましょう。

木から落ちるサルを狙って撃つ。ねらう先は、どこ?

弾は飛んでいるあいだに落ちます。だから狙いより下に着くはずです。 ではサルの上を狙えばいいのか。 いや、サルも落ちるのだから、それでは行き過ぎてしまいそうです。

カズオ
弾がどれだけ落ちるかを計算して、その分だけ上を狙えばいいのかな。 でも、サルも落ちてるんですよね……。
ポゥじい
ふふ、まずは撃ってみるとよいぞ。答えは、拍子抜けするほど簡単じゃ。

撃ってみる

「発射」を押してください。発射と同時に、サルは枝から手を放します。
ふつう

弾がサルまで届く速さであれば、速さを変えても当たります(遅すぎると、届く前に地面へ着きます)。重力を切ると、弾は狙いどおり一直線に飛びます。
※空気抵抗は考えず、重力は弾とサルに同じように働くものとします。

スウカ
当たった……! 上を狙わなくていいんですね。 銃口をまっすぐサルに向けたままなのに、ちゃんと当たりました。 サルだって落ちているはずなのに、どうしてでしょう。

動きを2つに分けて考える

なぜ当たるのか。答えは、弾とサルが同じだけ落ちるからです。

弾の動きを、2つに分けて考えてみます。ひとつは「そのまま前へ進もうとする動き」。 もうひとつは「重力で下へ落ちる動き」です。この2つは、たがいに邪魔をしません。 弾がどれだけ前へ進んでいようと、落ちる量は同じです。

サルのほうは、前へ進む動きがなく、落ちる動きだけがあります。 つまり2つとも、同じ時間に同じだけ落ちている。 もともと銃口はサルに向いていたのですから、両方が同じだけ下がれば、 出会う場所も下がるだけで、出会うこと自体は変わりません。

重力を切ってみると、この仕掛けがよく分かります。 弾は狙いどおりまっすぐ飛び、サルは落ちないまま。 落ちる動きだけを足したり引いたりできるところが、この考え方の要点です。

この話、じつはニュートンのものではありません 「サルと鉄砲」はニュートンの逸話として語られることが多いのですが、 もともとは、ガリレオが明らかにした放物線の運動を伝えるために、後世の人が考えた作り話です。 それがどういうわけか、ニュートンの話として広まりました。 ここで確かめた「動きを2つに分けて考える」という見方も、もとをたどればガリレオのものです。

カクカクを、細かくしていくと

ニュートンは『プリンキピア』のなかで、2つの動きが同時に起きたときの結果を、 平行四辺形の対角線として扱う法則を挙げています。 前へ進む分を1辺、落ちる分をもう1辺にとると、実際に進む先は対角線の先になる、という見方です。

この見方で弾を追いかけると、軌道は「まっすぐ進んで、少し落ちる」の繰り返しになります。 下の図を見てください。 白い横線が「まっすぐ進む分」、黄色い縦線が「落ちる分」です。 つないだ道すじは、はっきり折れ曲がっています。区切りの回数を増やしてみてください。

区切りを細かくしてみる

3

点線は、なめらかな曲線を描いた場合の道すじです。 区切りを増やすほど、折れ線が点線に重なっていきます。

けれど実際の弾道は、なめらかな曲線のはずです。折れ線とは別のものに見えます。

スウカ
折れ線と曲線は、別のものですよね。 これで「同じだ」と言ってしまっていいんでしょうか。
ポゥじい
よいところに気づいたのう。では、区切りをもっと短くしてみたらどうなる? 3回を10回に、10回を100回に。カクカクはどうなっていくかの。

区切りを細かくするほど、折れ線は曲線に近づいていきます。 書籍では、議論そのものはガリレオの理論だとしたうえで、 ニュートンがそれを「ごく小さなステップの積み重ね」として捉え直したことに注目しています。

そしてこの捉え方は、地上の弾道だけの話では終わりません。 まっすぐ進もうとする動きと、中心へ引かれる動き。この2つに分けて、 細かく刻んでつなげていく。惑星の軌道も、同じ考え方で解かれていきます。

ポゥじい
サルと鉄砲は、いわば準備運動じゃ。 ここで身につけた見方が、そのまま宇宙で使えるとは思わんかったじゃろう?

この記事でたどったこと

当たる理由は、重力がなかった場合の位置から比べると、 弾とサルが同じ時間に同じだけ落ちるから。 弾が地面に着く前に届く速さがあれば、狙いをずらす必要はありません。 ここで使ったのが、弾の動きを「前へ進む分」と「重力で落ちる分」に分けて考えるやり方でした。 2つの動きは別々に考えてから重ね合わせることができます。 重力を切ったときに弾がまっすぐ飛んだのは、「落ちる分」だけがなくなったためです。

もうひとつが、細かく刻んで、つなげるという見方。 「まっすぐ進んで、少し落ちる」を繰り返した折れ線は、 区切りを増やすほど、なめらかな曲線に近づいていきました。 ニュートンも『プリンキピア』で、そのまま進もうとする動きと、 中心へ引かれる動きを細かい時間ごとに重ね、惑星の軌道を考えていきます。

ここで扱ったのは、ニュートンが『プリンキピア』で組み立てた道すじの一場面です。 彼が何に悩み、どこで間違え、どうやって答えにたどり着いたのか。 その道のりは電子書籍『天才ニュートンの頭の中1』で詳しく書いています。

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