円周上のどこから転がしても、
必ず同時に着く。
坂を転がした球が、下まで来たあとも同じ速さで走りつづけたら—— どこまで進むでしょうか。ガリレオは、この問いから2つの定理を見つけました。
前の話で、ガリレオは「落ちる時間は高さだけで決まる」ことを確かめました。 けれど彼が本当に知りたかったのは、そこではありません。 速さそのものを、どう捉えるか。これがずっと解けずにいました。
坂の2倍を、同じ時間で走りきる
直角三角形ABCを考えます。頂点Aから球を転がして、坂ACを下る。 そして水平部分に、坂の長さのちょうど2倍の距離CDをとります。
坂を下りきった球は、そのときの速さのまま水平に進みつづけます (現実には抵抗で遅くなりますが、ここではそれを無視した理想の運動として考えます)。 さて、その球がCDを走りきるのにかかる時間は、坂ACを下るのにかかった時間と比べてどうでしょうか。
これは球を2つ使えば確かめられます。1つ目の球をAから転がし、それがCに着いた瞬間に2つ目をAから転がす。 レースを見てください。
1つ目の球がDに着くのと、2つ目の球がCに着くのが同時になります。 つまり坂を下る時間と、その2倍を水平に進む時間が等しいということです。
この関係を、書籍では〔倍距離則〕と呼んでいます。 そしてここが大事なところですが、水平部分での動きは、速さが変わらない運動です。 坂の上では球はどんどん速くなりますが、下りきったあとは一定。
ここで重要になるのが、「速さが変わらない運動」です。 ガリレオはこれを〔等速運動〕として定義し、加速する運動を考えるための手がかりにしました。
円のどこから転がしても、同時に着く
もうひとつ、坂から生まれた定理を紹介します。こちらはずっと意外な結果です。 ガリレオは坂の傾きをいろいろ変えて実験するうちに、 坂が急でも緩くても、高さが同じなら下まで転がったときの速さは同じだと確かめていました。 その延長で、こんな問いを立てます。
円を描いて、いちばん上の点をP、いちばん下をCとします。 そして円周上のどこでもいい、好きな点Aをとる。 Pから真下に落ちる球と、Aから坂ACを転がり落ちる球。 どちらが先にCへ着くでしょうか。
もっともな考えです。実際に点Aを動かして、確かめてみてください。
※ここでは摩擦や球の回転を無視して、坂に沿って下る理想の運動として考えます。
点Aをどこに動かしても、2つの球は必ず同時にCへ到達します。 検算欄の k² と h×R が、いつも一致していることにも注目してください。
これと、さっきの坂の話から導かれる時間の関係を組み合わせると、答えが出るんじゃよ。
もう少しだけ踏み込むと、円のなかに長方形を描いて、直角三角形の相似を使うと k² = h×R が出てきます。一方、坂を下る時間については、 坂ACを下る時間と、同じ高さ h をまっすぐ落ちる時間の比が、 坂の長さ k と高さ h の比に等しくなる——という関係が別に得られています (書籍では定理〔坂の時間比〕)。 このふたつを重ねると、Pから落ちる時間とAから下る時間が一致することが示せるのです。
この関係を、書籍では〔弦の規則〕と呼んでいます。円周上のどの点から下っても、着く時間は同じ。 落下の理論に直結するわけではありませんが、 まだ「速度」も「時間」も数学の言葉になっていなかった時代に、 こんな結果にたどり着いていたことのほうが驚きです。
寄り道が、地図になる
〔倍距離則〕も〔弦の規則〕も、それ単体では落下の理論の完成には届きません。 けれどガリレオは、こうした結果をひとつずつ手に入れながら、 少しずつ「速度とは何か」に近づいていきました。
その思い違いが何だったのか。どうやってそこから抜け出したのか。 この寄り道も含めた30年の道のりは、『ガリレオの挑戦』で ポゥじいとカズオ、スウカの3人と一緒にたどることができます。