等間隔に鳴る鈴。
その並びに隠された規則とは?
フィレンツェのガリレオ博物館に、少し変わった装置があります。 ゆるやかな坂に小さな鈴がいくつも取りつけてあり、 球を転がすと、通るたびに「チリン、チリン」と鳴る。 その音は、びっくりするほど正確に等間隔です。
ところが坂を見ると、鈴の並びのほうは等間隔ではありません。 坂の上では詰まっていて、下へ行くほど、どんどん広がっていく。 耳で聞くと等間隔なのに、目で見るとバラバラ。なぜでしょうか。
実際に転がして、確かめてみる
下の図は、この装置のしくみをもとにしたものです。 鈴は、「チリン、チリン」が等間隔で鳴るように位置を調整してあります。 鈴の数を増やしながら球を転がして、鈴の位置と間隔の数字を見てみてください。
音をONにすると、鳴る間隔が等しいことが耳で分かります。
不思議です。
並んだ数字には、じつは深い意味が隠れています。 その種明かしは少しあとに回して——まずは、もっと素朴な疑問から片づけましょう。
そもそも、なぜ坂を転がすのか
落ちる速さを調べたいなら、石を落として観察すればいい。 なぜわざわざ、坂を転がすのでしょうか。
手にした石を落とす。ただそれだけの動きから規則を見つけ出すのは、 思いのほか難しいことです。落ちるものはどんどん速くなり、 目で追っているうちに地面に着いてしまう。 どこを通ったのか、何秒かかったのか——測ろうにも、 400年前には、ストップウォッチもメートル法もなく、小数もまだ広く使われていません。
坂を使って動きをゆるやかにする。これがガリレオの出発点でした。
いっぽう、いま動かした装置がしているのは、その先の工夫です。 等しい時間で区切るために振り子を揺らし、その区切りを鈴の音で耳に伝える。 リズムのずれに対して、人間の耳は驚くほど敏感です。 時間を数字で測るかわりに、音のリズムで運動を区切って見せている—— 目と耳を組み合わせた、みごとな見せ方です。
鈴の位置に、規則が隠れていた
ここで、さきほどの図にもどりましょう。 鈴の数を増やしながら、鈴の位置の数字をもう一度ながめてみてください。
そのとおりです。そして次の鈴までの間隔のほうを見ると、1, 3, 5, 7 ……と奇数が並びます。 このふたつは、じつは同じことを言っています。
奇数を順に足していくと、平方数が現れる。 これは古代ギリシアの時代からよく知られていた性質でした。
音の間隔は等しい——つまり、鈴と鈴のあいだの時間はどれも同じです。 その位置が 1, 4, 9, 16 と並ぶということは、 球が進む距離は、かかった時間の2乗に比例しているということ。 時間が 1, 2, 3 と進むごとに、距離は 1, 4, 9 と増えていく。 この関係を、書籍『ガリレオの挑戦』では〔時間平方則〕と呼んでいます。
ただし、この話には続きがある
では、ガリレオ自身はどう実験したのか。 彼の著書『新科学論議』には、坂の実験についてこう書かれています。 球を一定の距離だけ転がして、その時間を脈拍で数えた。 同じことを何度も繰り返し、距離を4分の1にすると時間はちょうど半分になった、と。
道具は素朴でも、工夫と根気があれば信頼できる結果は得られる—— と、きれいに終わりたいところですが、この話には続きがあります。 フィレンツェの図書館に、『手稿107v』と呼ばれるガリレオの実験ノートが残っているのです。 そしてそこに記録されていた実験は、本に書かれたものとは違っていました。
なぜ、出版された本と実験ノートで、方法が違うのか。 ノートに並んだ数字は、何を語っているのか。 その謎解きが、『ガリレオの挑戦1』の本題のひとつです。
ちなみに、この〔時間平方則〕を見つけたのはおそらく1604年ごろ。 『新科学論議』が出版されたのは、それから30年以上あとの1638年です。 その30年余りのあいだ、ガリレオが何と格闘していたのか——それがこのシリーズの物語になります。