第1巻/『速度の謎に挑んだ30年の軌跡』P.22あたりに記載

等間隔に鳴る鈴。
その並びに隠された規則とは?

フィレンツェのガリレオ博物館に、少し変わった装置があります。 ゆるやかな坂に小さな鈴がいくつも取りつけてあり、 球を転がすと、通るたびに「チリン、チリン」と鳴る。 その音は、びっくりするほど正確に等間隔です。

ところが坂を見ると、鈴の並びのほうは等間隔ではありません。 坂の上では詰まっていて、下へ行くほど、どんどん広がっていく。 耳で聞くと等間隔なのに、目で見るとバラバラ。なぜでしょうか。

実際に転がして、確かめてみる

下の図は、この装置のしくみをもとにしたものです。 鈴は、「チリン、チリン」が等間隔で鳴るように位置を調整してあります。 鈴の数を増やしながら球を転がして、鈴の位置と間隔の数字を見てみてください。

動かせます
次の鈴までの間隔
鈴の位置(上から)
5

音をONにすると、鳴る間隔が等しいことが耳で分かります。

カズオ
間隔、どんどん開いていきますね。それでも音はぴったり等間隔……
不思議です。

並んだ数字には、じつは深い意味が隠れています。 その種明かしは少しあとに回して——まずは、もっと素朴な疑問から片づけましょう。

そもそも、なぜ坂を転がすのか

落ちる速さを調べたいなら、石を落として観察すればいい。 なぜわざわざ、坂を転がすのでしょうか。

手にした石を落とす。ただそれだけの動きから規則を見つけ出すのは、 思いのほか難しいことです。落ちるものはどんどん速くなり、 目で追っているうちに地面に着いてしまう。 どこを通ったのか、何秒かかったのか——測ろうにも、 400年前には、ストップウォッチもメートル法もなく、小数もまだ広く使われていません。

カズオ
時間を正確に測れないんじゃ、落下の規則を調べるのも難しいですよね。
ポゥじい
まず球の動きを遅くするんじゃ。 まっすぐ落とすと速すぎて追えん。じゃが、坂を転がせばゆっくり観察できるじゃろう?

坂を使って動きをゆるやかにする。これがガリレオの出発点でした。

いっぽう、いま動かした装置がしているのは、その先の工夫です。 等しい時間で区切るために振り子を揺らし、その区切りを鈴の音で耳に伝える。 リズムのずれに対して、人間の耳は驚くほど敏感です。 時間を数字で測るかわりに、音のリズムで運動を区切って見せている—— 目と耳を組み合わせた、みごとな見せ方です。

鈴の位置に、規則が隠れていた

ここで、さきほどの図にもどりましょう。 鈴の数を増やしながら、鈴の位置の数字をもう一度ながめてみてください。

スウカ
あ、鈴の位置が 1, 4, 9, 16 ……。これ、全部平方数じゃないですか?

そのとおりです。そして次の鈴までの間隔のほうを見ると、1, 3, 5, 7 ……と奇数が並びます。 このふたつは、じつは同じことを言っています。

1 = 1 / 1 + 3 = 4 / 1 + 3 + 5 = 9 / 1 + 3 + 5 + 7 = 16

奇数を順に足していくと、平方数が現れる。 これは古代ギリシアの時代からよく知られていた性質でした。

音の間隔は等しい——つまり、鈴と鈴のあいだの時間はどれも同じです。 その位置が 1, 4, 9, 16 と並ぶということは、 球が進む距離は、かかった時間の2乗に比例しているということ。 時間が 1, 2, 3 と進むごとに、距離は 1, 4, 9 と増えていく。 この関係を、書籍『ガリレオの挑戦』では〔時間平方則〕と呼んでいます。

ただし、この話には続きがある

いま動かした装置について 鈴を並べたこの実演装置は、フィレンツェのガリレオ博物館に展示されているものをもとにしています。 ただしこれは18世紀の終わりごろ、講義用に作られたものとされていて、 ガリレオ自身がこの装置を使ったという記録はありません。 法則が分かったあとに、それを分かりやすく見せるために作られたものです。

では、ガリレオ自身はどう実験したのか。 彼の著書『新科学論議』には、坂の実験についてこう書かれています。 球を一定の距離だけ転がして、その時間を脈拍で数えた。 同じことを何度も繰り返し、距離を4分の1にすると時間はちょうど半分になった、と。

カズオ
脈で時間を測るんですか。それだと、けっこう誤差が出そうな気がします……。
ポゥじい
鋭いのう。同じ本のなかで、途中から水時計に変えたと書いておる。 坂の傾きや距離を変えながら、100回以上も繰り返したそうじゃ。

道具は素朴でも、工夫と根気があれば信頼できる結果は得られる—— と、きれいに終わりたいところですが、この話には続きがあります。 フィレンツェの図書館に、『手稿107v』と呼ばれるガリレオの実験ノートが残っているのです。 そしてそこに記録されていた実験は、本に書かれたものとは違っていました

なぜ、出版された本と実験ノートで、方法が違うのか。 ノートに並んだ数字は、何を語っているのか。 その謎解きが、『ガリレオの挑戦1』の本題のひとつです。

ちなみに、この〔時間平方則〕を見つけたのはおそらく1604年ごろ。 『新科学論議』が出版されたのは、それから30年以上あとの1638年です。 その30年余りのあいだ、ガリレオが何と格闘していたのか——それがこのシリーズの物語になります。

ここで扱ったのは、ガリレオが30年かけてたどり着いた考え方の一場面です。 彼が何に悩み、どこで間違え、どうやって答えにたどり着いたのか—— その道のりは電子書籍『ガリレオの挑戦1』で詳しく書いています。

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