落ちた距離が、
三角形の面積になる。
横軸に時間、縦軸に速度をとる。いまでは中学校で見るこのグラフの 原型のひとつが、ガリレオの残した図のなかにあります。
だんだん速くなる運動を、図にする
速さが変わらない運動なら、進んだ距離は「速さ × 時間」で求まります。 図でいえば、横が時間・縦が速度の長方形の面積です。
ではガリレオが解きたかった落下——だんだん速くなる運動ではどうでしょう。 速度が一定でないので、長方形にはなりません。 空気抵抗を無視して考えると、速度は時間に比例してまっすぐ増えます。 だから描かれるのは三角形です。
この三角形の面積が、そのまま進んだ距離になる——ガリレオはそう考えました。 時間を動かして、形の変わり方を見てみてください。
三角形と、高さを最終速度の半分にした長方形。 ふたつの面積をならべて表示しています。
速度が一定なら長方形、だんだん増えるなら三角形。 形は変わっても、「距離を面積として表す」という発想は同じです。
そしてこの図から、現代の教科書に載っている式が自然に出てきます。 三角形の面積は、底辺(時間)と高さ(速度)を掛けて半分にしたもの。つまり——
みなさんが知っているこの式も、もとをたどればこの図にたどりつきます。
さらにこの式へ「速度は時間に比例する」という関係を代入して整理すると、 落下距離が時間の2乗に比例することを導き出せます。 実験でくり返し確かめられていた〔時間平方則〕が、 観察された事実から、証明された定理へと格上げされるわけです。 「そうなっているように見える」から「そうならざるを得ない」へ。 この差が、理論を持つということの意味でした。
三角形を、短冊に切り刻む
この三角形の面積は、そのまま計算できます。 けれど、のちの数学者たちはここからもっと先まで届く方法を見つけました。 底辺(時間軸)を、とても細かく分割する。 そして、細い短冊——小さな長方形——に切り分けていくのです。
まずは、さきほどと同じ直線のグラフで試してみましょう。 答えが分かっているところで確かめておけば、この方法が信用できるかどうかが見えます。
短冊1本の面積は「ごく短い時間 × そのときの速度」。つまり ごく短い時間に進んだ距離にあたります。 これを全部足し合わせたら、どうなるでしょうか。分割数を増やして見てください。
分割を細かくするほど、内側と外側の階段が本当の面積をはさみ撃ちにしていきます。 差がどんどん小さくなることに注目してください。
そしてこのやり方の強みは、グラフが曲線になっても同じように使えることじゃ。三角形の面積では歯が立たん相手にも届く。
こうして、今回のように一方向へ進む運動では、 速度のグラフの下にできる面積が、進んだ距離を表す——という見方が生まれます。
図から式へ
ガリレオが描いた三角形のなかには、のちに数式として整理されるものが、すでに芽生えていました。 速度が時間に比例して増えること。距離が時間の2乗に比例すること。 それらは彼自身の手では数式になりませんでしたが、 考え方を引き継いだ学者たちが、すぐにその形へ整えていきます。
数学が「抽象を扱う言葉」から「自然を記述する言葉」へ変わっていく—— その出発点が、この図のあたりにあります。
その証明は、前の記事で見た比例中項が 切り札になります。ガリレオが30年の迷宮を抜け出した瞬間の議論は、 『ガリレオの挑戦2』でじっくり追いかけられます。 現代の分数を使った証明と、ガリレオ自身が使えた比の理論だけの証明を、 ふたつ並べて読める形になっています。